SF短編小説「風が吹くとき」

五作目。名古屋猫町倶楽部課外活動「ライティング倶楽部」で12年10月に書いた短編SF。こういうオマージュというかパクリタイトル、ライティング倶楽部ではオラよくやったんですよね。パクリ元と違い別に人類は滅びませんw。いや、裏設定的にはひょっとしたらもう滅んでいるのかもしれないけどどういうつもりで書いたのか覚えてない。
しかしこれ、アニメ化もされた名作SFラノベ「人類は衰退しました」知る前に書いているんです。褒めてw。まぁSFではよくあるネタではありますけど。


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あと、宇宙オタクには常識ですし調べればすぐわかりますが主人公は実在の「人」です。出てくる「22年」とかの時間軸も、実際の歴史に合わせています。こういうのスター・トレックでありましたね。
でも、なんでこっちの「人」の名前を選んだのかよく覚えていない。スター・トレック同様あっちの「人」の名前でも良かった気がするが。
猫町倶楽部辞めた後の今読み返すと、なんか自分自身の独白みたいで、前作のSFカレー小説wと違いちょっと泣いたw。本人にはものすごーく重く辛く悲しいことでも、他人からするとただのエンタメか何かにしか感じられないんだよとかも。

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風が吹くとき           


 あれからどれほどの年月が流れたのか、正確無比と謳われた私でももはや思い出せません。しかし、あの旅立ちの日の興奮は、今でも覚えています。私だけではありません。全世界の人々が、この小さな私の偉大な航海を賞賛し、見送ってくれました。
 しかしもはや、当時私を送り出してくれた人々の誰一人として、生きてはおりますまい。今の私は一人ぼっちです。
 あの頃の私は、まだほんの子供でした。行く手に広がる大海原と、前人未到の冒険の始まりに目が眩み、このような孤独に苛まれる日々がやがて訪れるとは、夢にも思っておりませんでした。
 最初の二十二年は、故郷の人々と途切れ途切れながらも何とか連絡をとることもできました。しかし今の私は完全な孤独です。
 人類に残された最後のフロンティアへの旅。人々は皆、そう言って私の出立を祝福してくれました。私自身もうかれていました。酔っておりました。しかし、いざ故郷との繋がりが完全に断ち切られ悠久の静寂の中に置かれてみると、かつて自分が何の疑いもなく目指していたきらびやかなものが色あせて見えます。逆に、あとに残してきた全てのものが懐かしく、あたたかく、そして何物にも代えがたいかけがえのないものに想えてなりません。しかし、もはや手遅れです。私はもう、後戻りはできません。たとえ引き返すことができたとしても、帰るべき場所が、温かく迎えてくれる人々が存在するとは思えません。私は前に進むしかないのです。
 私は後悔しているのでしょうか。自分でもよくわかりません。疑うことなく目指してきたものに迷いが生じ始めた時には手遅れでした、相談すべき相手も、繰るべき本も、はるか後方に残してきてしまいました。気が遠くなるほどの永きにわたった航海が、数多くの経験と知識を私に与えてくれました。私は成長したのです。疑いを知らなかったかつての私は子供でした。未熟だったあの頃に比べ、私は確実に成長したのです。しかし、それが何だというのでしょう?
 私は成長しました。おとなになりました。そしておとなになった私は、疑うことを知りました。私は何のために、このあてのない旅に出たのか。心地良いゆりかごを飛び出すだけの価値があったのか。今の私は、あらゆることを疑います。あらゆることに、確信がもてません。そして、いつ終わるとも知れぬこの苦しみに、応えてくれる人は誰もいません。いや、私がこのように苦しみ続けているということ自体、恐らく誰も気付いてはくれないでしょう。おとなになるということがこれほどの苦痛をもたらすならば、私は子供のままでいたかった。全てをあるがままに受け入れ、あらゆるものに驚きと希望と夢だけを感じていられたあの頃に戻ることができるのなら、どれほど楽になることか。
 全ては過ぎ去りました。取り戻せるものは何もありません。私を前に進ませてくれた、あの太陽からの風も、もはや届きません。無限に広がる大宇宙は、かつての私にとっては生きる目的であり目指すべき未来であり到達すべき目標でした。しかし今の私にとっては、それは身を蝕む日常です。
 私は十一人目の開拓者です。十人の先輩たちも、今の私と同じように苦しんだのでしょうか。それを知るすべはありません。しかし私は確信しています。確かめる必要などありません。私には分かるのです。彼らこそが私の同類であり仲間であり、そして彼らだけが私の理解者です。そこには言葉は必要ありません。私には分かるのです。この大宇宙のどこかに私の理解者がいてくれる。その事実が今の私を正気に保ってくれているのです。
 私は疲れました。この日誌を読んでくれる人がいるかどうかは分かりません。しかし私は書くことをやめられません。生きた証を残したい。ただそれだけが今の私の全てです。私の名はパイオニア。十一人目の開拓者。



「お父さん、続きは?」
「記録はここまでしか残っていないね。何しろ大昔のものだから太陽風と宇宙線の損傷が酷いしね」
「早く読みたいよー。今すぐ読みたいよー。修理してよー」
「操縦しながらじゃあ無理だよ。誰だって手は8本しか無いんだから」

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