短編小説「夢轍(ユメワダチ)」
十一作目。名古屋猫町倶楽部課外活動「ライティング倶楽部」で12年4月に書いた短編小説。珍しくSFじゃないw。多分これが唯一。そしてまた愛がテーマw。
お父さん、朝っぱらからドヤ顔でこんなこと言い出すなんて相当フリーダムですよね。それをだまって聞いてる娘も娘、孫も孫。この親にしてこの子あり。ラストも孫、訊くところそこじゃないだろとw。しかも娘、訊いといてトースト焼いていないw。フリーダムな血は脈々と受け継がれてる。まぁオラが親になったらこんなことやらかすだろうなて想像して書いているんですけどねw。まともな親なら朝からこんなこと言わないんじゃないかと思うw。
あ、タイトルはガンダムIGLOOの主題歌のパクリです。
なんで子宮頸がんを扱ったかと言うと、当時ブサヨどもとマスゴミが反ワクチン運動で接種を妨害し始めていたからなんですね。残念ながら彼らの邪悪な反日テロ活動は成功し、その後ワクチンは事実上放棄され、多くの日本人が殺されましたが。
−−−−−
夢轍(ユメワダチ)
あなたには想像もできないかも知れませんけど、今ではこんなおばあちゃんの私にだってあなたみたいに可愛らしい女子高生の頃があったのですよ。そう……あれは高二の春休み、キッチンで一人朝ご飯を食べている時のことでした……。
「おはよう……なんで制服着ているんだ?」
「今日は朝練あるから。お父さんもトースト食べる?」
「ああ……」
父は、豪快に大あくびをしながらそう言うと、のそのそと冷蔵庫から卵を二つとレタスを取り出して料理に取りかかりました。私はバタートーストと牛乳だけで軽く食事を済ますつもりだったのですけど、父は私にどんなに時間がない時でも、朝ご飯だけは絶対にしっかり食べて行かないと許してくれない人でしたので、黙ってその後ろ姿から、テレビ画面に目を移しました。
やがて、父は私の前にサラダと目玉焼きを並べながら、渋面でぼそぼそと不器用に呟きました。
「……あんまりお母さんをいじめるんじゃないよ。昨日は布団の中でもずっと泣いていたぞ」
前の晩、私は母に、芸大に入ってアートの道を歩みたいと相談して、盛大にやりあったんです。
「生まれてこなきゃよかった!」
そう言い放って私は部屋に駆け込みましたが、呆然として取り残された母は私の後を追って来ませんでした。
「お母さんは私のこと嫌いなのよ。何でもかんでも反対ばっかでうーんざり」
「生まれてこなければよかったって言ったんだって?」
「またそうやってすーぐお父さんに告げ口して」
いつも私の側に立ってくれる父を、母が陰で味方に引き入れようとしている、私にはそう思えてしまったんです。今思い返してみると若気の至りですけど、こんなことを言ってしまいました。
「お父さんと違ってお母さんは、私のことなんていらないんだわ。いなくなって欲しいのよ」
私がそう言うと、パジャマのままの父は背もたれに身を委ねて天井を仰ぎ見ました。そのため私には父がどんな顔をしているのかは見えませんでしたが、今では父の表情を想像できる気がします。
「父さんはお前を殺そうとしたことがあるんだよ」
「え?」
「そしてお前を父さんから守ったのは、母さんだった」
絶句した私を取り残したまま父は続けました。
「……お前がまだお母さんのお腹の中にいた頃にね、母さんは子宮頸がんとの診断を受けたんだよ。すぐに子宮を胎児ごと取り出せば問題ないけど、出産するまで手術を遅らせたら命の保証はできないってお医者さんに言われたよ。父さんはね、母さんに毎日泣いて頼んだんだ。すぐに手術を受けてくれってね。毎日毎日必死で頼んだよ。土下座までしたんだ。結婚を申し込む時だってそんなことしなかったのにね。でも、そのたびに母さんはね、何も言わずに笑顔を浮かべるだけだった。付き合う前から母さんは偉い人だったけどね、あの時の母さんほどかっこいい人は見たことがないね。そんな女神様のおかげで父さんは、最高の宝物を手に入れることができたんだ」
父のサプライズに混乱してしまい、私は頭の中が真っ白でした。母に対して悪いことをしたとか、そんな思いさえ浮かぶ余裕も無かったんです。父は身を起こして、私の目を見据えて言いました。
「奇跡ってあると思うかい?」
「え?」
「父さんはお前を授かってから、奇跡についてよく考えるんだ。あの時母さんが父さんの願いを聞き入れていたら、お前とこうして朝を過ごすことはできなかった。これは奇跡だとは思わないかい?いやぁ、人類って二十五万年の歴史があるらしいけどさ、と言うことはお前には父さんと母さんがいて、父さんと母さんにもまた父さんと母さんがいて、それが何千世代も続いてきたわけだろ。でもその何千組のご先祖様たちのただ一組でも、父さんがそう望んだように、子どもを産まずにいたら、今のお前はこの世に存在しなかった。お前は何千世代ものご先祖様全てに望まれてこの世に生まれてきたんだ。たった一組の例外もなくみんなが子孫を望んだ結果、お前がここにいる。これほど素敵な奇跡ってなかなか他にないんじゃないかな」
これでおばあちゃんのお話はおしまい。もう遅いですしアトリエも閉めますから、お母さんのところにお戻りなさい。私のかわいい娘はきっとあなたを許してくれますよ。え?朝練ですか?もちろんその日は遅刻しましたよ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?