【綿町ダイアリー】#608 BEATLES FOR SALEとバーテンダー時代
カフェの開店準備を終え、
グァテマラ産の深煎り珈琲を淹れる。
珈琲の入ったマグカップをテーブルに置き
THE BEATLESの「FOR SALE」をかけた。
一瞬にしてあの頃にタイムスリップする。
僕は20歳。
神戸でカフェバーをしている。
自転車を店舗前の電柱にくくりつけてから
シャッターを開け、真っ暗な店内に入る。
電気をつけると同時に
昨夜のウィスキーの匂いが鼻につく。
カウンターやボックスのテーブルを拭き、
掃除機をかけて、空気を入れ替える。
そして、Openの看板を店頭に出す。
お隣りはイタリアンレストランだ。
僕のバーの開店は12時だから、
お隣りはちょうどランチタイムの時間帯。
僕はお隣の入口の扉を少し開け、
扉の隙間から顔を出してオーナーに挨拶する。
「あけみさん!おはよう!」
「亮くんヒマなんでしょ、手伝ってよー!」
そう言って笑顔で明るく手を振るあけみさん。
いつもの挨拶のやりとりだ。
僕は自分のバーに戻り、
コンビニで買ったサンドイッチをつまみながら、
バドワイザーを開けカウンター席に座る。
僕のバーに1人目のお客様が来店するのは
いつも13時を過ぎてから。まだゆったりだ。
もちろんあけみさんからの送客なのだけど。
店のオーディオ装置は、
まだCDではなくカセットデッキだった。
「FOR SALE」のA面をセットする。
1曲目の「No Reply」が流れてくる。
僕はそれを口ずさみながら
冷えたバドワイザーを喉に流し込む。
もう35年も前の話だ。
今、僕はあの頃と同じように
THE BEATLESの「No Reply」を聴きながら、
自分のお店で開店前の珈琲を飲んでいる。
僕はなーんも変わってないのかもしれない。
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