デザインの仕事と視覚障害
私は広告を主にデザインの仕事を20年ほどやってきました。年齢により経験と知識、さらには単純に外見で歳をとっているために説得力も上がっているのか、いまは提案なども軒並み順調です。
でも提案物に関しては、経験から的を得たものを提案できているのか、経験から企画が通りそうなものを無意識のうちに選んでしまっているのか、そこら辺の感覚に少し疑問を感じる瞬間も多々あります。
お客さんありきで、競争を勝つ手段としての広告を作っているのですから、自分が作りたいものだけ作っていたのでは生きていけません。予算もあります。なので、必ずどこかで折り合いをつけながら私は日々仕事をしています。
そんな中「今までの20年間で一番やってよかった仕事は何ですか?」と聞かれれば、「障害者のためのある仕事」を思い出します。
「映画上映のバリアフリー対応に向けた調査事業」
なんだかちょっとタイトル堅いですか?実は映画は今、視覚障害者や聴覚障害者も楽しめるようになっているんです。そうなる世の中の前に、どうすれば視覚障害者や聴覚障害者がスムーズにかつ気軽に楽しめるかの実施調査をしたということです。
ご存知ない人には、目が見えない・耳が聞こえない人が映画?と思うかもしれませんがざっと説明します。
視覚障害者のための映画バリアフリー
iPhoneやAndroidなどのスマホのアプリを使うことで、映画とリアルタイムで同期し、イヤホンから流れるアナウンスにより、俳優のセリフや効果音だけでは伝えきれない、場面の切り替わりや解説を聞き取り理解できるようになります。
聴覚障害者のための映画バリアフリー
メガネ型端末(実験時はエプソンMOVERIO)を使用することで、映画に字幕がつきます。今まで洋画には字幕がついていたので、楽しめた方も多いのですが、これによりメガネ型端末をかけて鑑賞した方のみが、邦画でも字幕付きで楽しめるようになります。
これにどう関わったか、ということなんですが、私がやったのは、それぞれの障害者が映画館に来場した際の手順や、機器の使用方法をまとめたガイドブックを制作。さらには、映画館スタッフの対応マニュアルとして事細かに障害を持つ人の特性、どのような対応が助かるか、また、盲導犬を連れたお客様などの対応はどうしたらいいかなどを、NPO法人の方と何度も議論を繰り返し、もちろん視覚障害者の誘導を自分でも経験させてもらって、まとめました。
そして迎えた実施調査。参加いただいた視覚障害者・聴覚障害者の皆さんにご満足いただき自分の中で「成功した」と思えることができました。
今まで競争社会を煽るような広告デザインという仕事をしてきて、より美しく見せることだけにフォーカスしてきたのですが、まさか自分の仕事が目の見えない人の役に立つ日が来るなんて思いもしませんでした。
マニュアル作りなんで、もちろん華やかな仕事ではありません。逆にスタッフの対応マニュアルなどは出回ることすらありません。
ですが、今までの人生で一番の仕事といえば私は迷わずこの仕事に関われたことをあげます。実際に今まで何度か聞かれたときも、迷わずこの話をしています。それほど、直接絵を見せる意義より、間接的にでも生活品質がよくなる仕組みを作れたという意義を大きく感じました。
皆さんも、そんな印象的な仕事ありますか?私はパラリンピックの競技を見ながら、またもっと人のためになることをしたいなと思いました。
映画バリアフリーの仕事を経験していなかったら、中目黒のためにと、こんな小さなお土産物屋をつくって地域を盛り上げようという気持ちにもならなかったかもしれません。
それではまた。
中目黒土産店/はなちゃん