「十七歳の夏」

深く切れ込んだ入江の
穏やかな海を見ていると
突然泳ぎたくなり

海に飛び込んだ
海底の白い砂が見えるほど

水は澄んでいた

私は対岸にある船着き場を目指して泳いでいた
はじめは何ともなかったが
泳げば泳ぐほど水は冷たくなり
海の色は深い緑色に変わっていった

足はとっくに着かなくなっていた

得体の知れない生き物が足に触れた
私は急に怖くなって岸に引き返そうとした
しかし焦れば焦るほど体は固くなり

岸はなかなか近づいてこない
鼓動が徐々に激しくなっていく
私は必死に泳ぎ続けた

「大丈夫か、乗っていくか」
小さな渡し舟が近づいてきた
船頭は老人で
日焼けした顔には深い皺が刻まれていた  

しかしその腕は太く若々しかった

いつでも助けてもらえると思うと
気が楽になり
手足は自由を取り戻した

老人に礼を言い
どうにか一人で岸にたどり着いた
真っ白な砂浜がまぶしかった

老人にもう一度礼を言おうとして海岸を
探したが、渡し船は見つからなかった
沖に目をやると
日傘をさした女と白いシャツを着た体格のよい男を乗せた渡し船があった
そこには対岸へ向かって力強く櫓を漕いでいる老人の姿があった

十七歳の夏だった


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