靴の機能と構造
靴の機能とは?
足を守る
この一言に、靴のすべてが集約されていると言っても過言ではありません。
外部環境(トゲや小石など)から守り、歩行を妨げず、スムーズな重心移動を誘導し骨格を守る。
現代では、靴の様々な機能が開発され、足を守る機能をいろいろな角度から修飾していると言えます。
中でも特に重要となる靴の機能を中心に解説していきたいと思います。
靴のパーツを大きく分けると
・アッパー
・ソール
に、分けることができます。
それぞれ重要なパーツ、機能について解説していきます。
アッパー
部位の各名称すべてを覚えるのは大変ですので、ここでは、機能的に重要な部位を解説していきます。
・トゥボックス
・月形しん(ヒールボックス)
・はとめ(靴ひも、マジック)
トゥボックス
つま先部を覆う部分の名称。
足尖部の形状が人によって異なり、その人に合ったトゥボックスを選ぶ必要があります。
スクエア型
ギリシャ型
エジプト型
ポインテッドトゥ
ヒールボックス
踵を包み込み、踵骨を固定する役割があります。
ですので、ヒールボックスはある程度強度がなくては、歩行や走行などの際は踵骨を支えきれません。
そこで、ヒールボックスには月形しんといわれる補強パーツが組み込まれ、踵骨の傾きを制御し支持しています。
踵をつまむと簡単に潰れるものは月形しんは入っていませんので、踵骨をコントロールには不向きです。
逆に踵部分をつまんでも、簡単に潰れないものは強度的に踵骨のコントロールに向いています。
踵の傾きは、leg heel angle(LHA)で測られます。
生理的にLHAは若干外反(踵に対し下腿が外側に傾いている状態)していると言われています(5~10°程度)。
しかし、大半の方(一説には8割の方)が、この外反が強く出ていると言われています。
この足関節の過度な外反に対し、ヒトの体は骨格バランスをとるための戦略を練ります。
積み木やジェンガを例えにしましょう。
積み木を積み重ねるとき、一つ少し横にずれたら、次に重ねる積み木は反対側に少しずらしてバランスを取ろうとしますよね?
体の中でも同じようなことが、無意識下で起きています。
足関節外反によって崩れたバランスは、それより上の骨格で調整するしかありません。
そして、調整している関節や筋に無理が生じて、痛みなどの障害を生んでしまいます。
その足関節外反は、荷重時に増強します。
それはヒールボックスによってある程度支持し、生理的外反を維持する働きがあります。
柔らかいと支持ができず、共倒れ状態になるので、非常に大事な部分であることがわかりますね。
靴ひも、マジックなどの足の甲を締めるパーツ
上記した機能的な部位は、靴紐やマジックテープなどの甲を締める作業により、本来の機能を発揮します。
なぜか?
甲の締めが弱い、いわゆる、ゆるゆるに履いている状態であれば、靴の中で足部が滑り、前方へ移動していきます。
すると、足尖部はトゥボックスと衝突してしまいます。
足尖部を守るはずのトゥボックスが原因で、足趾トラブルを引き起こしてしまいます。
また、足部が前方に移動したことで、踵の位置がずれて、ヒールボックスから外れていきます。
つまり、踵骨を固定できなくなります。
ここ、非常に重要ですが、あまり重要視していない方が多いです。
日本の生活様式的に脱ぎ履きが多いじゃないですか?
そのため、甲の部分が緩く、履きやすい靴が好む傾向にあり、しっかりと締めることが疎かになりやすい。
ですが、機能的なことを考えると、しっかり足の甲を締めることが大切ですね。
靴の締め方、現在ではいろいろあります。
靴紐、マジックテープ、チャック、スリッポンなどに使用されるゴムなどがあります。
中でも、甲の締めに適しているのは、靴紐とマジックテープです。
足の甲の高さに合わせて締めることができ、固定性も高いです。
しかし、マジックテープは要注意です。
マジックの形状がポイントとなります。
足の長軸に対し、垂直方向に延びているテープであれば、しっかり締めることができますが、足の長軸に対し斜めになっているものがあります。
斜めのマジックテープは、固定性が弱くなるため、マジックテープであっても避けたい形状です。
長軸に対し斜めのマジックテープは介護用品の靴などでも多く取り扱われているため、臨床でも多く見られるため、注意が必要です。
チャック靴は、足の甲を締める機能はほぼないです。
よっぽどジャストフィットしてないといけないですもんねw
靴紐があり、その横にチャックのついた靴はokです。
靴ひもを締めたり、外したりするのが面倒な方はお勧めかもしれません。
しかし、定期的に靴ひもが緩んでないか、確かめる必要はありそうです。
ゴムは、そもそも足部を固定すだけの力はありません。
そして、ゴムって長いこと使用していると、伸びてしまいますよね?
そのため、経過と共に、さらに固定力は非常に弱くなります。
上記が一般的な靴の締め方ですが、私個人が非常に気にっているのが、ダイヤル式と呼ばれるものです。
ダイヤルを回すことで、甲を全体的に締め、靴とのフィット感も抜群です。
脱ぐときも、パチッと外すことができますので、脱ぎ履ぎの多い方、靴紐を一回一回結ぶのがめんどくさい方、なんらかの理由で能力的に結べない方などにオススメしています。
ソール
アウトソール・ミドルソール・インソールに分かれます
アウトソール
ソール部分の中で実際に地面と触れる面。
特殊加工された強度の高いゴム製のものが多い。
他にも革製のものもあります。
地面と接する面であるため、高いグリップ性が求められます。
そのため、トレッド形状と呼ばれる凸凹とした形状をしています。
溝があることで、グリップ力が増し、滑りにくくなります。
イメージしやすいのが、車や自転車のタイヤです。
新品のタイヤは溝がしっかりあり、走りもスムーズでブレーキも効きやすい。
すり減って溝がなくなると滑りやすくなりますよね?
靴でも同様で、溝がない形状であったり、すり減ってツルツルだと滑りやすく転倒のリスクが高くなります。
ミッドソール
アウトソールとインソールの間の部分。
前述したアウトソールは耐久性の高いゴムであるため、衝撃吸収性はやや劣ります。
そのため、歩行時の衝撃を吸収するため、ミッドソールは衝撃吸収性の高い加工樹脂が使用されます。
ミッドソールで機能的にかなり重要なのが、シャンクと呼ばれるパーツです。
ソール部分は、ゴム・樹脂などで構成されていますが、柔らかい素材であるため、荷重時変形し、適切な足部の運動を誘導できません。
そこで、シャンクと呼ばれるパーツを挿入します。
シャンクは、ソール部分の適正な剛性を与えますので、アーチサポート、MP関節でしっかり曲がるという機能が付加されます。
インソール
この項では、他項で説明があるので、詳細は省きます。
インソールとは、ソールの中で一番、足底に近い部分のことで、足底と直に接する部分です。
そのため、インソールの形状は、足部機能に大きな影響を持ちます。
オーダーメイド、レディメイド(既製品)のもの、現在ではいろいろあります。
既製品は一定の効果はあるかもしれませんが、一般的な足、一般的な機能により制作されています。
一人一人足の形・機能は違いますので、その人に合ったインソールを使うのがベストですね。
様々なメーカーが、様々なコンセプトでインソールを作っていますので、違いを見ながら、その人に合ったものを探すのも面白いですよ。
ソールの屈曲性
ミッドソールの項で、軽く触れましたが、ソールの屈曲性、柔軟性も重要なポイントとなります。
シャンクの入ったソールであれば、だいたい前1/3程度で屈曲するように設計されています。
その屈曲点が、MTP関節と合致することで足部機能を補助します。
ここで、他項で詳細は書かれていますが、足部アーチについて簡単に述べたいと思います。
足部アーチはウィンドラス効果とい機能があります。
中足趾節間関節が背屈することで、足底腱膜等の緊張亢進しアーチが引き上げられる現象のことです。
歩行時、立脚後期~下肢振り出しの際、より前足部へ重心移動が行われます。
ですが、重心が前方に移動することでアーチがより潰れると、スムーズに踵離地が行えません。
そこで、同時期に中足趾節間関節が背屈位となることで、ウィンドラス効果が作用します。
ウィンドラス効果により、蹴り出し時、母趾が背屈された際に、足底腱膜などの緊張亢進により、アーチの引き上げが行われ、スムーズに下肢の蹴り出しがが行えます。
そのため、歩きやすくするため中足趾節間関節部分に屈曲性を持たせる必要があります。
靴を見るときは、
①シャンクによって適切に屈曲するか
②屈曲点が中足趾節間関節に合っているか
を確認する必要があります。
どうでしょう。
靴って奥深くないですか?
まだまだ知ろうと思えば、もっとマニアックになり、
しかし、面白くなってきます。
誤った靴の知識だと、足部トラブル(胼胝、巻き爪、外反母趾など)に繋がります。
糖尿病や透析患者であれば、足部トラブルから傷を作り、壊疽に繋がり、最悪の場合、切断にまで繋がってしまう恐ろしい道具でもあります。
私は、フットウェア外来というものを担当し、多くの壊疽・切断の方を見てきましたが、その多くが、誤った靴の知識、意識の低さを目にしました。
もちろん、リスクのある方だけではなく、多くの方の問題の解決の糸口になる可能性があり、靴について、正しい知識を身に着けることが大事だと思っています。
足トラブルがある、歩行が不安定、スポーツで怪我しやすいなど、なにか問題を見つけた時、靴を見ましょう。
もちろん、靴だけで解決できるとは思いませんが、
簡単に消せる原因は、消しておきましょう。
靴は変えればいいわけですから。
それでは、ありがとうございました。
参考文献
1)坂口顕 他;理学療法士のための足と靴のみかた,文光堂,2013
2)西脇剛史;おもしろサイエンス 足と靴の化学,B&Tブックス,2016
ライタープロフィール
中木屋 友太
理学療法士
・Spine Dynamics療法 アドバンスコース終了
・3学会呼吸療法認定士
・フットウェア外来を担当し、足病や体の痛み、パフォーマンス向上のためのフットウェア指導、インソール作成に従事
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