Leon Thomas With Oliver Nelson / In Berlin(1971)
はじめに
別のポストを考えていてそこで本アルバムを取り上げようと思い久しぶりに聴いてみたら今の自分にすごく響いたのでこちらも久しぶりに単独作品のレビューをしてみることに。
グーグルさんに聞いてみても本作をレビューしている日本語サイトがほぼ見つからなかった。
レオン・トーマス
独特過ぎるヨーデル唱法を武器にフリー、スピリチュアルの世界に独自の存在感を今なお示し続ける怪人ヴォーカリスト、レオン・トーマス。(本作のメンバー紹介を聞くと「レ」オンより、「リ」オンの発音がより原語に近い様子。ロニー・スコットの英国訛りのせいかもしれないが)
ヨーデルと言うと一般的には「ヨロレイホ~」的なものをイメージするが、それとはまったくの別物。
とにかくクセつよ。
「ウホホ~」とか「ウェロウェロウェロウェロ~」みたいな、ジャングル奥地で姿は見えずともどこからともなく聞こえてくる正体不明の野獣の咆哮のような声。
正直キモいので慣れるまでは受け入れられない人も多いはず。
一時期サンタナ(Santana)に加わっていたこともあり一部のロック・リスナーはご存じかも。
ツアーで日本にも来たこともあり、かの有名な横尾忠則デサインの22面だか36面だかのジャケットを持つ「Lotus」のアルバムでもその声が確認できる。私もこのアルバムは2006年のリイシューCDを持っているがディスクの出し入れ(折り畳み)がくっそ面倒で全然聴いていない。
2017年リイシューのLPやハイレゾ配信にはこれまで録音物には未収録だった「The Creator Has A Masterplan」も収録している…らしいが聴いたことはない。
いくつか活動をしていたようだが本格的に世に出てくるのは何といってもファラオ・サンダースの1969年「Karma」収録「The Creator Has A Masterplan」でのヴォーカル。穏やかに寄せては返すさざ波と、荒れ狂う暴風雨のような30分に及ぶこの曲での彼の歌声は天へ突き抜ける一筋の光のようなピースフルで眩い輝きを放つ。
その後は前述のサンタナでの活動はじめフリー、スピリチュアル系のミュージシャンの作品に客演しながら、自身でもフライング・ダッチマンを中心にリーダー作を残す。
晩年はドラッグ禍や喉の不調もあり不遇ではあったが、盟友フレディ・ハバードの手助けにより作品もリリースしている。
特にフライング・ダッチマン時代の作品は後年のレア・グルーヴ等のクラブ系での評価が高く、ピー・ウィー・エリス(Pee Wee Ellis)を迎えた「Blues And The Soulful Truth」(1972)や「Full Circle」(1973)といったソウル/ファンク寄りなアルバムが人気。
本作について
1970年のベルリン・ジャズ・フェスティバルの実況録音盤で翌年にフライング・ダッチマン(Flying Dutchman)よりリリース。
インパルスでコルトレーンやアーチー・シップ等のレコーディングに係わっていたボブ・シール(BobThiele)によって立ち上げられたフライング・ダッチマンは、活動年数は少ないながらも、名作ぞろい。
本作は単独名義ではなくオリヴァー・ネルソンとの連名リーダー作となっている。前日のオリヴァー・ネルソンがビッグ・バンドを率いての演奏は自身の名義にて別にリリースあり(「Berlin Dialogue For Orchestra」)。それもフライング・ダッチマンより。
メンバー
Leon Thomas / African flute, African mouth organ, vocals, percussion
Oliver Nelson / alto saxophone
Arthur Sterling / piano
Gunter Lenz / bass
Lex Humphries / drums
Sonny Morgan / bongos
ドラムのハンフリーズとパーカスのモーガンはサン・ラ・アーケストラ、ピアノのスターリングはプーチョのバンドにいたメンバー。
トーマスは歌いながらシェケレやウインドチャイムなど複数のパーカスも操っている。
前述の通り、司会(?)はクラーク=ボラン楽団にも参加していたロニー・スコットらしい。
曲
1.Straight,No Chaser
モンクのスタンダード・ナンバーにトーマスが詞を付けたオープナー。トーマスは初っ端から自慢のヨーデル唱法を聴かせてくれるが演奏自体は比較的ストレート・アヘッドなもので真っ当なジャズ。
2.Pharaoh's Tune(The Journey)
タイトル通りファラオ・サンダースの曲でトーマスのスタジオ盤としては、セルフ・タイトル作に収録。
鍵盤ハーモニカのような音のアフリカン・マウス・オルガンが聴こえるとアフロな感じが出始める。当然スキャットも取り入れるが普通に歌がうまい。引き込まれるような声で比較的わかりやすいメロディを歌う。
3.Echoes
初出は初リーダー作の「spirits Known And Unknown」
このあたりから徐々にスピリチュアルな世界に踏み込んでいく。アフリカン・フルートとスキャットを自在に操りつつも何とも優しい歌声。それに呼応するようなネルソンのソロも実にジェントル。
4.Umbo Weti
イントロでパーカスが鳴り響くここからB面。スタジオ収録としては同年発売の次作「Gold Sunshine On Magic Mountain」に収録。
パーカッシブルなリズム・セクションのループを上をトーマスのスキャットが、ネルソンのサックスが、モーガンのボンゴが舞い踊る。
5.The Creator Has A Masterplan(Peace)
ここまで何度も話題にあがっている、スピリチュアル・ジャズを象徴する1曲。「spirits Known And Unknown」をはじめ何度もレコーディングされている。
反復するベース・ラインから例の「イェイェイェイェイェイェイェ~」が聴こえてくれば全ては救われる。慈愛と平穏に満ちた桃源郷への旅立ち。厭離穢土欣求浄土。死を憧れよ。この穢れた現世を捨て主のおわす天上へと旅立とう。そのためにはまずお布施を…と思わず胡散臭い新興宗教の勧誘のようになってしまうピースフルさよ。
ファラオのヴァージョンからは過激な面を省き揺蕩うような穏やかさに包まれる名演。優しさ溢れるトーマスの声がたまらない。終盤の畳みかけるようなスキャットはまさに天衣無縫。
6.Oo-Wee! Hindewe
アンコールとしてトーマスが一人でアフリカン・フルート小品。
まとめ
奇怪なヨーデル唱法にどうしても耳が引っ張られがちだが、それ以外は実にブルージーで力強くまた優しい歌声。7色の歌声を持つとはよく言ったものよ。
全編通してアフロ・スピリチュアルな音。ジャケットもいい。