フレンチとコーヒー
過日、内輪ばかりのクローズドな集まりで「フレンチ×コーヒー」というテーマでワークショップといいますか、検証のようなことをやってきました。
その場にいたパティシエはもちろん、オーナーシェフも料理とコーヒーを合わせた経験はなく、もちろん私自身目の前で調理されていくものを見ながらその素材や味に合わせたコーヒーを抽出をするのは初めての試みでとても気持ちが高揚しました。
この日は「白ネギと白身魚のグラタン」をメインに野菜スープ、サラダの三品。そしてデザートはイチゴのブランマンジェ。
それに対して準備したコーヒーは「ミスターの一杯」と「エルサルバドル サンタエレナ農園 ナチュラル精製」でした。
ミスターの一杯に使用しているコーヒー豆はグァテマラ、コスタリカ、ブラジルの3か国。その中でもグァテマラは2つの農園の豆をそれぞれ焙煎し分けてミックスして使用しています。コスタリカは個性を抑え気味にしておおまかなフルーティさを表現し、とにかく「甘さ」を引き出しています。これはカラメルの甘さだけではなく、コーヒー豆の持っている完熟フルーツのような甘さを大きく引き出しています。ブラジルは口当たりのまろやかさとナッティな風味をもっています。これらの特徴を焙煎度合い、配合割合などいくつも検証し様々なシチュエーションで心地よく飲める味に仕上げています。
エルサルバドル サンタエレナ農園 ナチュラル精製の豆はコーヒーの木から収穫した果実をそのまま天日乾燥させ、乾燥した果肉部分を脱殻した豆で、焙煎したコーヒーの味はストロベリーのような風味をもつものになります。ですからイチゴのブランマンジェとの相性はとてもよいコーヒーとなります。あとは焙煎度合いでコーヒーの味としてどのように仕上げるかを考えます。
浅煎りだとフルーティさが際立つためブランマンジェのイチゴとシンクロしすぎる可能性があります。それでは単調な組み合わせとなり奥行きがないと思いました。また、深煎りにしてカラメルの味を引き出すとブランマンジェとの味との親和性が少し欠けると推察しました。そこで焙煎はメイラード反応をできるだけ長くさせて甘さとほんのり洋酒のような風味を引き出し、酸味はフレッシュフルーツというよりはドライフルーツのような熟成させた風味を出す焙煎にすることとしました。そうすることでブランマンジェの美味しさをより複雑かつ奥行きのあるものにできると思ったのです。
この日はシェフが初の料理教室もやっていたので調理する姿を見ることができました。その工程を見て、ときどき味見もさせてもらっていたところ私の直感が「いつもどおりのドリップではこの味に合わせられない」と訴えてきました。そこで急遽、日ごろ淹れているドリップとは異なる手法で普段よりも奥行きのある味わいとなるドリップでコーヒーを合わせることにしました。
結果として、料理とコーヒーを合わせたときにはシェフをはじめ会場にいた方々から「コーヒーを料理と合わせるなんて想像もしなかったけど合うもんなんだ」「ブランマンジェの味わいが何段も上がった!コーヒーでこんなことができるんだ」と前向きな感想をいただくことができ、コーヒーの可能性を感じることができる時間となりました。
そして、私にとってもっとも嬉しかったのは料理を進める工程の考え方と私が焙煎に対して研究を重ねてきたアプローチの仕方が重なる部分を多く持つということです。これがわかると焙煎の幅をもっと広げることができると感じることができるからです。
もっともっと焙煎の世界を広げてコーヒーの味わいの幅も広げられたら、と思いました。