イタリア料理とコーヒー(前編)
【ペアリングの原点】
私は2011年、愛知県豊橋市で自家製ケーキと自家焙煎珈琲の店を開業しました。店の自慢は「ケーキとコーヒーのペアリング」です。パティシエの作るケーキはフレッシュなフルーツをふんだんに使ったものが少なくなく、それらのケーキに合わせるコーヒーを作るときにはフルーツと一緒にペアリングして一層美味しく感じることができる味づくりを心掛けていました。フルーツの種類は多岐にわたり本当に種類が豊富だったためこここそが私のコーヒーの味の幅が広げられていった原点だといえると思います。
【シェフとの出会い】
カフェを開業した2011年、愛知県豊橋市内で開催されたイベントに出店をしました。そのイベントは植物を扱っている店内で開催された音楽イベントだったのですがその場にフードと飲み物の店で出店しないかという話をいただいたのです。
イベント当日出店したときフードの店はウチとイタリア料理のリストランテの2店。そのイタリア料理店のオーナーシェフはイタリアから帰国してウチと同じく2011年にお店をスタートさせたシェフでした。そのとき「せっかく隣同士だし」ということでお料理を買わせていただいたのですがこれがびっくりするほど美味しかったのです。シェフも同じようにウチのケーキとコーヒーを買ってくれ「なんだこれ(うまい)!」と思ったそうですがこれは後々聞くこととなります。
【ペアリングを考えるようになった原点?】
私はもともとコーヒー自体あまり好んで飲むようなことはなく、どちらかというと紅茶を好んで飲んでいました。コーヒーは味というよりもどうも舌触りなどテクスチャーがいまいち好きになれず(美味しく飲めるものと出会うことがなかったため)単体で飲むようなことはあまりなく、たまに飲むにしてもたいてい何か(たいていケーキ)と一緒に合わせることが多い人間でした。
人生の中で一番ケーキとコーヒーをセットで食べる機会が多かったのは刑事時代に特別捜査本部の専従員として捜査をしているときに先輩(二つ年上の男性の先輩)とペアを組んでいろんなところに行くことが増えた時です。その先輩は同郷の人でお酒を飲まない代わりに甘いものが好きで、その人と仕事に行くとたいてい待ち合わせにケーキのある店を選ぶことが多かったのです。
当時、捜査の合流地点は某チェーンの喫茶店が多く同僚たちはコーヒーを注文していましたが私はいつもジュースを頼んでいました。どうしてもカップ1杯のコーヒーを飲み切ることができなかったのです。でもペアを組んだ先輩の選ぶ店はチェーンではなく個人店などでケーキの美味しいお店が多かったのです。はじめは女性客ばかりの店内にスーツを着た男二人で入ることに躊躇がありましたが次第にそれも馴れていきました。そういうお店ではケーキとコーヒーを一緒に注文することが増え、結果としてペアリングについていろいろ考察するようになったのかもしれません。
実際、待ち合わせで使ったお店にプライベートでケーキを買いに行くことが増えたように思います。
【コーヒーを料理に合わせる】
時は経過し、愛知県でやっていたお店を閉じた私は軽井沢へ移住をして某自家焙煎珈琲会社に入社し焙煎部門に配属されました。そして個人店ではおよそ取り扱うことのないほどの多くのコーヒー生豆に触れました。そそして世界のトップクオリティと呼べるものも少なくなく、これまでの経験だけでは思いつくことができなかった発想が出てくることも少なくありませんでした。
そしてトップクオリティと呼ばれるものはその価格もトップクラスでした。コーヒーは嗜好品なので価格の高いものは品質も高いものが多いのですが必ずしも多くの人が美味しいと感じるわけではありません。ここはコーヒーに限らず同様だと思うのですが…。私がいた自家焙煎珈琲会社は日本の中でも間違いなく素晴らしい品質を取り扱っており、しかもそれはコーヒーを好きな方にはかなり認知されていると思います。それでもトップオブトップと呼ばれるものが飛ぶように売れるところは見たことがありませんでした。
そこで自分なりに色々考え「美味しいものが並ぶところに一緒に並ぶことができればその価値を楽しんでもらえるのではないだろうか」と考えるようになりました。しかし当時の私は焙煎担当セクションにいたため生豆の管理、焙煎、ブレンド作成などが業務であり思いをそこで実現させることはできませんでした。
しかし頭の中には「素晴らしい食材が並ぶ場に素晴らしいコーヒーを並べたい」という気持ちがふつふつと芽生えたのは間違いありません。