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村弘氏穂の日経下段 #13 (2017.6.24)
ねむってるあいだの僕を借りていた天使が僕を返し忘れる
(東京 木下龍也)
夢幻的秀作。まるで他人事のような悠揚迫らぬ文脈からは、ことさら驚きも怒気も察することが出来ない。飄々とした平気があるだけだ。「僕」と「天使」のあいだには、円満な貸借契約が交わされているかのように。睡眠中も時は流れる。そこにあるのは僕の抜け殻。起きぬけに漂っていた奇妙な空気。新鮮なその違和感をただ単に吸えば幻、吐き出せば詩だ。おそらくは天使が僕であるうちは僕は天使で過ごすのだろう。
新聞の一ページ全面広告にペットフードが進出したり
(長岡 渡辺康一)
そのサイズも然ることながら、よほど鮮烈なアドバタイズメントだったのだろう。むろんその企業が潤っているからに他ならないのだが、それは政府のパブリシティーではない。たとえ裏のページの全面が、獣医学部新設計画について論じられていたとしてもだ。また結句にてペットフードが「出現」ではなく「進出」としたところにも妙味がある。その技巧は、少子化によるベビーフードの「後退」をサジェスチョンしているのだ。