#67 スタートアップにおけるリビングデッド状態の是非とNEL社の脱却事例

VCやスタートアップ業界にいるとリビングデッドという言葉は聞いた事があると思う。定義自体は正直曖昧というか、決まったものはないがネガティブな言葉として使われる事が多い。今回はリングデッド状態をVCの立場からどう考えているのか、そして最後にいわゆるその状態になったところから脱出して投資先のNELにインタビューしたvideo podcastを紹介したい。

-スタートアップにおけるリビングデッド

スタートアップとはなにかという定義については、以前#45 ”スタートアップ”とはどの企業を指すのかという記事を書いた際にも書いたが、こちらも定義は曖昧だ。一方で急成長を目指すということにおいてはやんわりと全員の賛同を得られているのではないかと思う。

では急成長モードではないスタートアップのことをリビングデッド状態というのかというとそうではない気がしている。例えばシードの段階などでは大体は急成長をしていないことがほとんどだ。また、事業を模索している創業初期などは成長などはない。ではリビングデッドという状態はどういう状態なのだろうか?


-リビングデッドかどうか

定義問題には正解はない前提だが、個人的には下記状態は典型的にリビングデッドに当てはまる気がしている。

“既存の事業を完全にストップしており、事業がない(開発もしておらず)がキャッシュがある状態で半年から1年以上事業選定を繰り返している状態 or 受託事業で生計を立てている状態”

こういった状態は典型的なリビングデッドのような状態であると言えるのではないかと考えている。そこの定義においては期間も大事だと考えており、こういう状態が長く続くとやはり精神的にも疲れてくることがある。

また受託事業が悪いとは全く思っていなく、むしろB2Bなんてなにかの受託を誰かがおこなって成り立つ業界(SIerなどの業界はまさにそういった色はある。)だという認識の前提の上で、起業家のミッション・ビジョンなどに関係ない受託を長年やってしまうことは、リビングデッドという状態に当てはまるのではないかとは思う。

ただ定義・判断が難しいのは既存の事業が利益もでており、売上も伸びてはいるが目指していた成長率では成長ができない可能性がある状態というのをどう捉えるかは難しい。実はそれがその事業に即した適切な成長率である可能性があるが、VCの立場からはVCの資本コストを超える成長率ではない可能性もある。このような場合の判断は一概にリビングデッドとは言えないだろう。VC側からのバイアスが強すぎる意見ではある。いわゆるスモビジとの違いがあり、このあたりの定義感は難しい。

-リビングデッド状態の是非

そういった状態になったときにどう判断すべきか。そうなっても諦めずに事業が立ち上がるまで頑張るというのは正論というか理想ではある。一方で、広義でみたときに貴重な起業家のリソースが他の企業や輝ける場所にあったほうが社会として良い可能性はあると思う。自分なりの結論は起業家が決めることではあるから、決めたことを応援したい。ただ起業家が自分からやめますというのは言いづらいことではある。なのでVCとしては、そういう状態が長く続いているときには選択肢を提示していくことは重要だと考えている。起業家の心が折れない限りは挑戦は続けることはできるが、折れるギリギリまでやってもらうまで求めるべきなのかというとそうではないと自分の一意見としてはそう思う。(様々な考え方あるので、あくまで自分はの場合)

なので自分の投資先にも上記のような状態になった場合はどうするかはこちらから選択肢なり、提案しにいったりはする。それで最後は起業家の意思決定を尊重している。(ただこれはセンシティブなコミュニケーションではあるのでタイミング含めて難しいが)


-スタートアップはプロジェクトなのか、撤退の意思決定の是非

ただ逆にそういう対応の仕方は、悪い方向性に働くとモラルハザードが起きる可能性はある。例えば会社をプロジェクトとして捉えて、資金調達をしたが当初の仮説どおりにうまくいかなかったのですぐに会社を精算します!という流れになると、それはそれで個人的には良くないと思う(それで良い派もいて良いとおもうし、USはそういう気質がより強いと思う)

一度も多少のPivotをせずに事業が進捗していくことは本当に希少というか、ほとんどないことを多くはないかもしれないがシード投資に向き合ってきて思うことである。実際に創ってユーザーに届けてみて、価値提供や解く課題などを少しずつ調整しながらPMFを見つけにいくのがシード期間だと思っている。そういう意味においてはプロジェクト的な側面はある。その柔軟性が大企業にはない強みとなってスタートアップに利となる。

なので、撤退の意思決定がモラルハザードにならないためにはどうしたら良いのかは明快な答えはないが、起業家が人事を尽くすことは大事だとは思う。人事を尽くしてRunway・お金がなくなった、なくなりそうになるとそれは意味のあるチャレンジだったということで撤退の意思決定をしてもよいのではないかと思う。そこで生きていくためのお金を稼ぐためだけに、受託をはじめたりするのは前述のリビングデッドに近づいてしまうのではもったいない気もしている。

ただしそこで見つけた仮説を証明するために、Runwayを伸ばす活動をすること自体はチャレンジとしてまだやるべきことがあるように思える。なので撤退の意思決定の是非を一律に語ることはできないが、個人的には人事を尽くしたか?やれることはすべてやったか?が重要な気がしている。

Pivot神話を信じすぎずでも、諦めないことも重要

スタートアップにおいてPivotは当たり前というのは書いたが、Pivotと一言でいっても範囲がある。例えば同じ業界の同じ課題に対して解き方を変えたりするのは狭い範囲のPivotであろう。しかし例えば全く違う業界で全く違う解き方をすることは広い範囲のPivotである。

狭い範囲のPivotは、PMFにたどり着くまでも、たどり着いてからもずっと起きる調整ではあると自分は認識しているが、広範囲のPivotについては要注意が必要だと思う。(特にVCなどから資金調達してしまった場合)

どうしても記事などを読むと、そういった広範囲からのPivotの脱却が良いストーリー・ナラティブとして取り上げられる(今回後述するNELのストーリーもそれ)が、それが実際起きることは稀だなと自分は思っている。(*ある程度最初の事業を進めた上で変える場合。起業の初期段階だと全然普通だが)

なのでPivot神話にすがりすぎてもよくないし、その広範囲のPivotをしているときは覚悟を持ってやるべきだとは思う。やはりそこからスタートアップ性であり、急成長のモメンタムを取り戻すのは大変であるし、困難である。


-NELの事例:リビングデッドからの脱出

そういった状況に自分の人生初の投資先のNEL社も陥った。2つほど事業を立ち上げたあとに、いわばリビングデッドのような状態に数年間入ったあとに、現在また急成長を遂げて資金調達も完了している。もちろん今後NELがうまく行かない可能性はあるかもしれないが、そういった状態まで持ってきたことが安直にいうとすごい。

そういった話を以前代表の西田と話したときに、この経験はなにかコンテンツ化しておきたいなということで、初めてvideo podcastを撮ってみた。リビングデッドという状態からどう抜け出したのか、なぜその状態になったのか、今の事業に確信をもてるためのステップはどうだったのか、VCとの話し合い方などを聞いてみた。

動画の中でもあるが、やはり万人におすすめするやり方ではないが、こういった事例もあるということでもし誰かの参考になれば幸いである。

Spotify の podcastはこちらから

https://open.spotify.com/episode/43vmGqMy9oy94j8T9nGqCS?si=aw2uxrSnSD-1iF3XUH2DHw

最後に
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