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【旅の記憶】ペンギンに会いにフィリップ島へ③(Melbourne 8)

ツアーバスは、何と言うか淡々と、橋を渡ってフィリップ島に入った。まず最初に島のビーチにちらりと寄り、コアラ保護センターへ。ユーカリの林の中をボードウォークで歩けるのだが、その至るところに野生のコアラがくっついているのだ。
高いユーカリ(英語ではユーカリプス、ガムツリーともいう)の上で、その葉をひたすら食べる者、赤ちゃんコアラをおなかの袋に入れている者。自らの体重で技が弓のようにしなっている、そのまだ上まで登ろうとしているコアラには、その場の全員が悲鳴に近い声を上げたが、コアラは平然と日々の暮らしを続けていた。
ふいに傍の技にクッカバラ(ワライカワセミ)が飛来した。シドニー以来、久しぶりに頭でっかちのユーモラスな姿を見て嬉しくなる。私はそのクッカバラにシャッターを切り、再びバスに乗り込む。バスは次の目的地に向けてゆっくりと動き出す。

フィリップ島唯一の町らしい町、カウスに着く。オーストラリア大陸との内海に面した、こじんまりとした町で、海に突き出た桟橋では沢山の人が釣り糸を垂れている。ここでそれぞれ夕食を取ることになっていた。
時間はたっぷりあったが、何はともあれ腹ごしらえである。私はおいしそうで安いものを探して、夕方の町をぶらぶらと歩いてみた。高そうなレストランを後に、テイクアウェイの店が並ぶ一角に出る。
中に一軒、とても賑わっていて、歩道に出した席も埋まっているフィッシュ&チップスの店があった。今日は一日野菜を食べていないので、緑の野菜はないかと表に出してあるメニューを目で追うと、フィッシュ&サラダというのがあるではないか。
フィッシュとくれば猫も杓子もチップスだと思っていたので、ちょっと感動すら覚えて店に入る。メニューは沢山種類があって、フィッシュ&サラダといっても何パターンかあるらしかったが、今日のお勧めらしい粒マスタード添えにしてもらう。
大きい白身魚が乗って8ドル。外のパラソルの下でゆっくりと味わって食べた。海からの風が心地よい。食べ終わるとそのまま海の方へ歩いていく。桟橋の先まで行って釣りをしている人達を眺め、その後は浜辺に座って集合時間までじっと海を見ていた。

さて、出発時間となったので集合場所に戻り、バスに乗り込んだのだが、どういうわけかいくら待ってもご夫婦が一組現れない。どうするのかな、と思っていると、バスはするすると動き出すではないか。
まさか置いていくのではとびっくりしたが、ドライバーは先程私が夕食を取っていたレストラン通りに、バスをぐるっとターンさせて入っていった。 ゆっくりゆっくり車を進めると、車内の誰かが「あそこだ!」と叫ぶ。
何と二人は時間のことなどすっかり忘れてカフェのテラス席でくつろいでいる。ドライバーがプーッと盛大にクラクションを鳴らすと、気付いた二人は慌てふためいて走ってきた。
やっと全員が揃ったバスは、島の南端へと進路を取った。徐々にペンギンに会える時間が近づいてくる。

島の南西部にあるノビーズロックという景勝地に向かう。途中は野生のワラビーがのんびりと辺りを窺っているようなだだっ広い草原だ。
バスを降りると、夕暮れ時の暗く沈みかけた海が目の前に広がっている。ペンギンパレードの見られるビーチはすぐそこ、この海を南下していけば南極にぶつかるのだった。
それは結構衝撃的な事実だ。ここに吹き付ける風は南極から運ばれてきているのだ。海を挟んで小高い島が見えていた。そこには野生のオットセイが群れを成して棲息しているらしいのだが、肉眼で確認することはできなかった。


これまでの【旅の記憶】は、以下のマガジンにまとめています。


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