いい人ぶるわけではないが
私は、車椅子の人や、白杖を持ったひとがいて、手伝いを出来るようであれば声をかけるほうである。
電車に乗っていても、席はゆずるほうだ。というか、駅に着くたびに、席を譲るべき人が乗ってこないか、確認するのも面倒くさいので、立っている事が多い。
どうだ、私はいい人だろう、と主張したいわけではない。まったくもっていい人ではない。
イヤなのである。
席を譲れば良かった、とか、車椅子の人の介助をすれば良かった、とか、白杖の人の道案内をすれば良かった、とか、そんなことを思うのがイヤなのである。
気が付かなければいいんだろうが、気がついてしまう。あっ、と思ってしまう。そのまま通り過ぎてしまうと、後でやってりゃ良かった、とうつうつと思ってしまう。
そんな思いをするくらいなら、声をかけて動いたほうが気が楽なのである。
要するに親切心でやっているわけでも、相手のことを思いやってやっているわけでもなく、自分が嫌な思いをしないためにやっているだけなのだ。
と、こう書くと最低な人間だな。
さてさて、今日。
奈良を歩いていると、白杖を持った人が歩いていた。
点字ブロックを白杖で探している。
探り当てた。
そのままたどっていく。
時間の余裕もあったので
「こんにちは。お手伝いしましょうか?」
と声をかけた。
白杖の方に声をかけても、大丈夫です、と断られることが多い。
自立なさっていて何よりだ。
この方は違っていた。
「え、いいんですか?」
おお、受け入れたぞ。
ここは奈良。私は案内すると言いながら、道には詳しくないぞ。
キタやミナミのように地理把握は出来ていない。
私が自分に大丈夫?ってなった。
「少し遠いんですけど、いいですか?」
「構わないですよ」
「けっこう歩きますけど」
「用事のある時間より、早く来ていて奈良をブラブラしようと思っていたんです。特にどこに行こうと決めているわけでもないし」
「お天気もいいし、歩いて帰りたいなあ、と思っていたんですけど、人通りの多いところを歩かなくちゃいけないのでバスで帰ろう、と思ってバス停に向かっていたんです。ホントにお願いしてもいいですか?」
白杖の方が、嬉しそうに言ってきた。
「いいですよ。なにしようかなあってブラブラしてただけですから。予定の時間まで二時間以上あるし。じゃあ、行きましょうか。手を失礼しますね」
そう言って、相手の手を取って私の肘を持ってもらった。
その方は、商店街の中を抜けて行きたい、とおっしゃった。
確かに土曜日だし、観光客も多いし、商店街を白杖で抜けていくのは苦しいな。
諦める気持ちもわかる。
「普段、ガイドかなにか、なさっているんですか?」
「いえ、なんの資格も持ってないし、ガイドもしてないですよ。まあ、こうして声をかけることは多いですが」
それにしても、嬉しそうだ。
歩いて帰りたかったんだな。
商店街を抜けたら、私、道、わからないけど。
そう思っていたが、大丈夫だった。
相手の方がしっかり道をわかっていた。
「ちゃんと地図が頭の中に入っているんです。車の音の方向で右左も判断して」
「いやーすごいですねー。素晴らしいなあ」
いや、ホントに地図が頭の中に入っている感じ。
商店街抜けて、猿沢池抜けて。
「猿沢池の道は怖いんです。片方は池でしょう。反対側は溝になっているし。落ちたら危ないので歩けないんですよね」
おっしゃる通りで、道の作りとして、どうしてもかまぼこ状だし、歩きにくいよなあ。
なるほどー。
そういう不便があるのかあ。
白杖にセンサーつけたらいいのかな?
白杖から警告音を出す?
バイブをつける?
不自由を自由に。
不便を便利に。
ものづくりの基本だ。
「あのー聞いていいのかなってことなんですけど、もともと目が不自由だったんですか?」
初対面で、よく聞くなあ、そんなこと。我ながらそう思う。でも、気になったから。
「ああ、違います。10年前くらいからなんとなく違和感が出てきて、白杖を持つようになったのは二年くらい前からです。今でも、明るい、暗い、くらいはわかります。まだ残ってるですね」
「いや、声をかける前、あんまりにもスムーズに歩いてらして、大丈夫です、って断られるかな?と思いながらも声をかけたもので、そうだったんですね」
ここからは一人で行けます。というところで別れた。
二年であんなにスムーズに歩けるようになるのか。すごいなあ。
地図も頭の中に入っていて、方向感覚もあんなにも正確になるものなのか、ホントにすごい。
20分くらい、一緒におしゃべりしながら歩いてましたが、とってもいい経験というか、気付きというか、発見というか勉強になりました。
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