『デザイン保護法』分担執筆時に考えていた3つのこと [DESIGN/LAW]
こんにちは、弁護士の中川です。
先日、共著として参加した『デザイン保護法』(茶園成樹=上野達弘編著)が勁草書房さんから出版されました。
今日は、担当部分(第4章 空間デザイン)の執筆時に考えていた3つのことについて、書き残しておきたいと思います。
1. オーダーに応える
まず一番に考えたのは、「なるべく依頼の本旨に沿って書き上げよう、期待に応えよう」ということでした。
勁草書房編集部の中東さんに執筆依頼をいただいた時の出版企画の概要は、このような内容でした。
なかなか「欲張り」なミッションですよね笑。しかし、結果的には執筆中に構成・内容に悩むたびに何度も立ち戻る指針となりました。例えば、第4章の冒頭では法分野を横断した空間デザインの保護の「見取り図」を示しています。また全体的に、基本的な事項をなるべく簡潔に整理することや、法改正や海外の裁判例も丁寧に紹介するよう意識しています。また、図・画像も多用しました。
ただ、オーダー内容はこれだけではなく、僕の担当パートについては、さらりとこのように書かれていました。
正直、「うーん、都市か・・・」と半ば絶句しました笑。そのくらい、従前あまり議論されてこなかった領域です。しかし、奇しくもその後都市デザインのデジタルデータの活用について急速に議論が進み始めたこともあり、とてもタイムリーな「お題」となりました。本書で都市についてきちんと取り上げることができたのは、ひとえに編集者・中東さんの先見の明のおかげです。
とはいえ、果たしてこれらの難しいオーダーに十分にお応えできているかどうか。その判断は、本書を手にとっていただいた読者の皆様に委ねるしかありません。
2. 新しい論点にも果敢に挑む
また、「せっかく書くなら新しい論点にも果敢に挑もう」とも考えました。意匠法が改正されたばかりだったこともありますが、あくまでそれはひとつの背景。やはり「他所に書いてあることをまとめる」だけではなく、そこに「自分ならでは」のスパイスを加えたい、という素朴な欲求がありました。
例えば、本書では次のような論点についても書いています。いずれも、これまでほとんど議論されてこなかったのではないかと思います。検討は不十分かもしれませんが、実に楽しい取り組みでした。
建築の著作物を個人が自邸として使用するために建築として複製する行為は私的複製(著作権法30条1項)に該当し得るか?
私人宅の内装(非公開)にも「建築の著作物」として著作権法46条2号の権利制限が適用されるか?
登録意匠と類似する大型建築物の一部を利用する者も意匠権侵害主体となるか?(例:大型商業施設の1テナント)
登録意匠と類似するマンションに住民が住む行為は意匠権侵害か?
都市そのものがひとつの著作物となり得るか?
一企業が都市をまるごとデザインした場合、知的財産法はその一企業に都市デザイン全体の独占権を与えるべきか?
また、以前登壇した日本工業所有権法学会の意匠法改正シンポジウムで他の登壇者の先生方(横山久芳先生、五味飛鳥先生、青木大也先生、麻生典先生)と楽しく議論した先端的な論点(例えば「意匠権侵害に該当すれば、巨大建築物でも取り壊しの対象になるのか」)も、いくつか紹介しています。
3. 保護と利用のバランスを意識する
デザインと法について検討する際には、保護と利用のバランスをいつも意識しています。ただ今回は、意匠法改正や商標法施行規則・商標審査基準の改定による空間デザインの保護範囲の急拡大を取り上げることもあり、改めてこのバランスを強く意識して執筆を進めました(ともすると「保護拡大」一辺倒になりかねないですよね)。
振り返ってみれば、まさに帯にもあるように
というのが、(曲がりなりにも)僕が書きながら考えていたことだ、ということになりそうです。
ということで(宣伝)
プロダクトデザインからパッケージ、ファッション、空間、画像、グラフィック、さらにはキャラクターまで、幅広く「デザイン」の保護のあり方を検討・紹介する書籍、『デザイン保護法』をどうぞよろしくお願いします。
<2022年3月21日23時30分追記>
参考までに、担当した第4章の細目次を掲載しておきます。