不当解雇の対応
こんにちは。法律事務所アウルの家(池袋)の弁護士の中川です。今回は、不当解雇、の対応について、書いていきます。
勤務先である会社からの「不当解雇」や「退職勧奨」は、労働関係の相談のなかでも、とりわけ多い相談の1つです。
例えば、入社直後からパワハラが絶えず、それでも我慢して働いていたのに解雇を言い渡されたという相談もありますし、その他にも、元々は会社内の人間関係も良好で、業務の成果も出ていたのに、上司が交代したら意見が合わず、退職を強く求められるようになった、というような相談もあります。
この記事では、「不当解雇」を受けたときの対応について、ご説明します(「退職勧奨」についても、また別の機会にご説明したいと思いますので、現在、お悩みである方は、どうぞご相談ください。)。
解雇に関する法律の解説
そもそも「解雇」とは
さて、そもそも「解雇」とは、ですが、解雇とは、使用者側(会社側)からの一方的な意思表示によって、雇用契約を解約することをいいます。
「解雇」という言葉自体は、一般的にも使われている言葉ですから、「●日限りで解雇する」とか「即日解雇」といったようにそのまま解雇という言葉を使って通知されることもありますし、「もう会社に来なくていい。うちのドアはくぐらせない」などと言って、出社用の鍵やカードを取り上げるといった場合などもあります。
多くの場合には、そのように言われる前にも、色々と予兆になるような出来事があることが多いのですが、それでもやはり、非常に強いショックを受ける出来事です。
解雇は簡単に認められるものではない
ですが、ご存じの方も多いと思われますが、雇用契約は、本来、原則として、会社側が一方的に打ち切れるものではありません。
雇用契約が、無期契約か、それとも有期契約であるかによって、適用される法律は違うのですが、どちらにしても、その原則は同じです。
無期契約であれば、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法第16条)とされています。有期契約の場合にはさらに厳しく、「やむを得ない事由がある場合」でなければ解雇はできません(労働契約法第17条1項)。
(ただし、有期契約の場合には、満期のところで更新しないという場合には、解雇ではなく「雇止め(やといどめ)」といいまして、一般的には解雇よりは認められやすくなってしまいます。ですが、諦めるのは早く、それまでに何年も契約を更新してきていて、今回も更新の期待がある場合など、「雇止め」も無効になる場合もあります。ですので、納得できない雇止めの場合には、まずは法律相談をされることをお勧めします。)
例外として、多額の会社のお金を「横領」してしまった場合など、状況によっては、解雇が有効になる場合もあります。
ですが、多くの場合には、「不当解雇」と感じられるようなものは無効であるといってしまってもよいのが、実際です。(それぐらいに、世の中には一方的な「解雇」が多いということでもあります。)
不当解雇に対する対応
それでは、不当解雇を受けてしまったという場合には、どのように対応すればよいでしょうか。
「解雇」であることをハッキリさせる
まず、大事なことは、「今回のことは、使用者側からの解雇である」ということを、客観的に見て明らかな状態にすることです。
というのも、例えば、書面もなく口頭(こうとう)で、「あなたは解雇する。もう来なくていい」と言われて、会社を追い出されてしまったというケースで考えてみます。
この場合には、その場では、「解雇」であることは明々白々といってよいことです。しかし、書面などの形で残っていないため、1ヶ月ほど後になって、あなたのほうから会社に対して「解雇は無効である」と通知をしたところ、「解雇などしていない。あなたが勝手に連絡もなく、出勤してこなくなったのだ。無断欠勤が1ヶ月も続いているので、解雇する」というように言われてしまう可能性があります。
信じがたい話ですが、元々、不当解雇をしてくるような会社なので、後から事実をねつ造するようなことは多いのです。
誤解のないように書きますと、上記のようになったからといって、負けてしまうとか、会社の側の言い分が認められてしまうとまでは言いません。むしろ争える場合も多いだろうと思います。
ただし、「そもそも解雇の事実はあったのかどうか」が争点の1つになってしまいますので、解雇を争うためのハードルは一段高くなってしまうのです。
ですので、まずは、「今回のことは、解雇である」ということをハッキリさせることが大事です。
その方法は、例えば、電話やメールで、今回のことは、解雇であるということで間違いないかどうか確認することが考えられます(電話の場合には、もちろん録音をする訳です。)。
ただし、非常にショックを受けている場面ですので、憤ったとしてもそれはある意味当たり前のことではありますが、電話のときに、怒鳴るなどすると、これもまた、「会社内でも、いつも部下などに対して怒鳴り散らしていた」などと作り話をされたり、脅迫されていたなどと言われかねません。
できる限り、冷静な態度で、対応しましょう。
また、後でも述べますが、会社とのやりとりのときに、解雇を受け入れるような発言をしてしまうと、そのやりとり自体が「退職の合意」だという話になってしまいかねないので、その点はどうぞご注意ください。
解雇が無効であることの通知
次の対応としては、解雇が無効であること等を、会社に通知するのが通常の対応です。
あわせて、早い段階で、「解雇理由証明書」という書類の発行を、会社側に請求します。
なお、「解雇理由証明書」という書類と似たような名前の書類に、「退職証明書」というものがありますが、「退職証明書」は、文字どおり、会社を退職したことの証明書ですので、それを請求すると、「解雇を受け入れた」というように見られてしまう可能性があります。ここは、間違えないようにしましょう。退職証明書は請求すべきではありません。請求すべきは、解雇理由証明書です。
この書類は、会社は、請求されたら遅滞なく発行しなければならないと、労働基準法第22条2項で規定されている書類です。この書類を請求しておくことで、会社が後から解雇理由を次々に付け足したり、はてはねつ造してきたりということを予防するわけです。(本当に重要な解雇理由ならば、「解雇理由証明書」を書く段階で、解雇理由として挙げていて当然ですからね。)
他方で、非常に重要なことは、上でも少し触れましたが、「解雇を受け入れた」というように見られてしまうような行動は取るべきではない、ということです。
例えば、退職届や退職合意書といった書類にサインをすると、客観的には、「解雇」ではなく、「自主退職」や「退職合意」であるかのように見えるようになってしまいます。
この場合にも、退職を争うことができないわけではありません。
そもそも退職するということは、人生に関わることですので、本当に退職する意思があってそのような書類にサインをしたのかどうかということは、法的手続のなかでも慎重に見極めるべきだとされています。例えば、携帯電話を新しく契約するといったこととは訳が違うので、サインがあるからといって即座に退職と判断するべきではないとされているのです。
とはいえ、やはり、退職届などの書類が作成されているかどうかでは、大きな違いがあります。
また、「解雇予告手当」を請求するとか、「退職金」を請求するといった行動は、解雇を争うためには、絶対に請求するべきではありません。これらのお金は、退職することを前提にしたお金ですから、これを請求してしまうと、やはり「解雇を受け入れた」(合意退職が成立した)というように見られてしまう可能性があります。
なお、通知書の作成・送付などは、弁護士にご依頼頂ければ、本人に代わって弁護士が行うものになります。
どうぞご安心ください。
(解雇の事実の確認については、本人から連絡したほうがよい場合もあると思いますが、ご相談のなかで詳しくお話を伺ってから、アドバイスいたします。)
弁護士への相談
不当解雇については、基本的には、対応が複雑であることや、心身へのご負担を考えましても、ご本人で対応することは難しいと思います。ぜひ弁護士に相談して、法的手続を検討することを勧めます。
そして、いつの段階で弁護士に相談するのがよいかといいますと、これは、早いほどよいといえます。
「まだ解雇はされていないけれども、解雇されてしまいそうな予兆がある(例えば、社長との面談のときに「他の会社に行ったらいい」と言われたなど)」という段階であっても、弁護士に相談していれば、その段階のうちにできるアドバイスもありますし、弁護士が会社との交渉を引き受けられる場合もあります。
不当解雇の相談の場合には、会社側も折れないことが多いので、仮処分や労働審判といった法的手続によって、解雇の無効を訴えたり、出勤できない期間中の未払賃金の支払いなどを求めていくことになります。ただ、専門的な手続になりますので、弁護士に依頼せずに申し立てることはお勧めできません。
なお、その後の解決方法としては、会社がどうしても出勤を認めないという場合には、解雇によって生じる損害賠償の支払いを受けて退職合意をするということもあります。もちろん解雇の無効を求めて争い続けることもあります。
どのような解決が望ましいかということについては、会社側の対応を見ながら、私からも見通しを伝えて、ともに考えていくことになります。
悪質な会社に対する対応
ここからは、少し一般的な話からそれて、私見も交えた話になりますが、悪質な会社に対する対応について、書いていきます。
一般的な会社に対する対応については、上に述べたとおりなのですが、これが、会社の社長自身が相談者相手に常習的にパワハラを行っていた場合など、悪質な会社である場合には、弁護士から「解雇を撤回せよ」という趣旨の通知をしますと、今度はたちまち、「それでは解雇は撤回する。明日から出勤せよ」と命じて、再び出勤させ、そして平然とパワハラを繰り返すということもあります。
これも、もはや信じがたいお話ですが、実際にこういうことが起こるのです。
このような会社に対する対応についてですが、私の考えとしては、このような会社については、少なくとも一度は、司法の場で会社の実態を明らかにしたうえ、今後はパワハラが行われないように求めていくことが、解雇を争うこととあわせて必要になるでしょう。
そのため、不当解雇の後、会社に対して通知するにしても、「当方は解雇に同意していない、本件については、法的手続を通して、労働者としての地位確認を求めていく」という通知をするに留めておき、速やかに仮処分手続や労働審判手続を取る、ということが考えられます。
そもそも、契約の解除の意思表示をしておきながら、さらにそれを一方的に撤回するということはできません(民法540条2項)。この規定は、解除の意思表示の撤回を認めると、法律関係が複雑になるし、相手方の地位を不安定にするからであるとされています(中田裕康「契約法(新版)」(有斐閣、2021年)217頁)。
解雇という、相手の人生を根底から揺るがすような重大な意思表示をしておきながら、それが無効だと指摘されたら即座に撤回するような行為は、それ自体がパワハラ的です。それを認めてしまうならば、再度出勤させて嫌がらせをして退職を強要するという悪質な行為が、事実上、野放しになってしまいます。ですから、ここは民法の規定どおり、勝手な撤回は認められないというべきでしょう。
また、今後、上記のような悪質なケースに遭遇した場合には、私としては、状況によっては、当事務所のホームページで会社の対応を公開して世に問うことも検討しなければならないかもしれないとも思っています。それほど、野放しにしてはならない悪質な対応だと思うということです。
最後はやや細かい話になりましたが、不当解雇を受けてしまったときの対応についてのお話は、以上になります。
今後も、役立つ法律知識を書いていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
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