出生の秘密、家族との葛藤、そして「許し」へ―志賀直哉の『暗夜行路』①
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8月第2作目には、志賀直哉の長編小説、『暗夜行路』を取り上げます。
『暗夜行路』は、志賀直哉が1921年~1937年の16年余りをかけて手がけた唯一の長編作品。
主人公・時任謙作の複雑な家族関係や恋愛での葛藤が克明に描かれ、彼の内面的な成長を辿っていく大作です。
志賀直哉は、文芸思潮『白樺派』を代表する小説家の一人で、芥川龍之介は「創作の理想」とするなど、多くの日本人作家に影響を与えました。
『暗夜行路』――出生の秘密、家族との葛藤、そして「許し」へ
志賀直哉(1883~1971)
【書き出し】
私が自分に祖父のある事を知ったのは、私の母が産後の病気で死に、
その後二月程経って、不意に祖父が私の前に現れて来た、その時であった。
私が六歳の時であった。
【名言】
【あらすじ】(前編)
時任謙作は、幼い頃から父親の愛情を感じることができなかった。
謙作が六つの時に母親が亡くなると、何故か、他の兄弟とは違い、祖父と妾のお栄の家に引き取られた。
小さい頃、父親と相撲を取って負けた謙作は、父に憎しみを感じた。
亡くなった母も謙作に厳しかったが、屋根から降りられなくなった謙作を心配してくれたことがあり、母だけは自分を愛してくれたと思っている。
成長した謙作は文学を志し、祖父が亡くなったあとも、お栄と一緒に住んでいた。
友人と行った吉原で登喜子という芸者に惹かれ、何度か通いはしたが、気持ちは定まらない。
それは、愛子という女性との破談が心の傷になっていたからだ。
謙作の母と愛子の母は幼馴染で、謙作は何となく、亡くなった母の面影を愛子の母に見ていた。
やがて、謙作は愛子の可憐さに惹かれ、彼女の母と兄に結婚を申し込むが、愛子は別の家に嫁いでしまった。
愛子の母からも見放されたことに、謙作は傷つき失望する。
謙作の生活は乱れる一方で、ついに曲輪(くるわ)通いの放蕩生活に陥ってしまう。
そんな東京での生活に自堕落さを感じた謙作は、瀬戸内海の尾の道に移り、新しい生活を始めた。
自伝の執筆に取り掛かり、一ヵ月ほどは順調だったが、仕事が行き詰まると、逆に単調な生活が彼を苦しめた。
ある日、謙作は四国に旅行を決める。
屋島に宿泊した後、言い知れぬ孤独を感じ、急にお栄に会いたくなった。
祖父の妾と結婚すれば非難されるだろうが、それが二人にとって、よいことのように思えた。
謙作は兄の信行に、お栄と結婚したいと書いた手紙を送った。
六日後、返事が来た。
手紙には、「お栄は結婚を承諾しなかった。また、このような手紙が来ることを予想していた」とあった。
さらに、驚くべき事実が書かれていた。
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