見出し画像

ウェブメディアおよびマスメディア、そしてインターネット好きオッサンに利用されつくされた若者について

「iPhoneアプリを開発した天才中学生、しかも灘中学に通っている」ということで2010年頃に華々しくメディアデビューを果たしたTehuこと張惺(ちょう・さとる)さん。同氏が執筆した『「バズりたい」をやめてみた』(CCCメディアハウス)を読みました。

画像1

アマゾンのレビューではボロクソに書かれているのですが、総合すると「文字が少ない」「自分語りである」という点にあるかなと思いました。前者はさておき、後者については「そういう本なんだからいいじゃねぇかよ」と思ったのですが、私自身は楽しく読めましたよ。

というか、自分のキャリアと完全に重ね合わせて読むことができたのです。もしかしたらこの本はウェブメディアに従事する人が読むとドンピシャでハマる本であり、自らの仕事の姿勢を考えるにあたっては良いのではないか。Tehuさんのファンが読むのであればそれは楽しめるだろうし、業界人にも楽しめる。ただ、タイトルにある「バズを狙うことを辞めた」という意図を汲んで「もうオレはSNSの担当をするのはイヤだ! バズらないでいいんだ! ということを上司に説得したい」と考えた人にとってはまったく役に立たないでしょう。

さて、自分にとってはドンピシャだった--そこについて解説していきます。Tehuさんがメディアでしきりと取り上げられたのは2009~2010年の14~15歳の時期でした。そして、2014年、「なぜ衆議院を解散するのか?」ということを小学4年生が疑問を呈する形で作ったサイトが実は「なりすまし」だったことがバレて炎上した時の当事者としてTehuさんは再びメディアに取沙汰される。この時は慶應SFCに入っており、「天才少年」は「炎上青年」となっていた。

正直、この時の炎上についてはTehuさんというよりは、もう一人の相方の男性がより目立った感じでした。私自身はネット上の諍いやら珍事件を追うのが仕事なため、これも記事化はしているし、様々な意見も述べました。その後、ライターのヨッピーさんとTehuさんと3人でニコ生に出演し「炎上」について語ったこともあります。

この本についてまず「ビビッ」と来たのは、彼が次々とメディアに取り上げられるようになったくだりです。

僕のアプリを取り上げようとするメディアは、実際のアプリそのものよりも、「中学生が開発している」という点を強調した。1995年生まれの僕はデジタルネイティブ世代の寵児として扱いやすかったのだろう。

これなんですよ! 2009年~2010年頃はインターネットに牧歌的な空気が漂っていた。そして、ネット好きのオッサンがその可能性を高らかに宣言し、「デジタルネイティブ」の若者がいかに自分とは違う「新人類」的であるかをこぞって紹介する時代だったのです。こうした時代の空気感にTehuさんは見事にハマった。メディアにしても「おいしいネタ見つけた!」「ネット時代の新たなる息吹!」みたいに紹介するのが定番だった。いわば、Tehuさんは当時のインターネットを流れる空気感と、そしてそれを作るネット好きオッサンに骨の髄までしゃぶりつくされたのです。

家入一真さんが2010年代中盤に「インターネットが好き」と若者に伝えたところ「家入さんは『ハサミが好き』と言っているようにしか感じられない。ネットが好き、の意味が分からない、と言われてしまった…」と著書で書いていました。デジタルネイティブにとってはオッサンが「ネット」を特別視する感覚が分からない、という象徴的なエピソードです。

Tehuさんもそうした若者のイメージ像醸成のためにオッサンから使われた面があることでしょう。そうです、私のようなウェブメディアに従事するオッサンが彼を利用したのです。他にもオッサンが牛耳るウェブメディア及びインターネット好きオッサンはこんなスターを過去に作ろうとしました。

◆世界一周する様子をブログに執筆する「はあちゅう」さん

◆日本一ツイッターフォロワー数が多い名古屋の大学生「もーりす」さん

◆日本一Google+のフォロワーが多い「空の写真を撮っていただけ」の「坂口綾優」さん

◆年収150万円で幸せに生きていくと宣言した「イケダハヤト」さん

◆孫正義氏からツイッターでフォローされた中学生「うめけん」さん

◆学校に行かないYouTuber小学生「ゆたぽん」さん

そして、「iPhoneアプリを開発した天才中学生・Tehuさん」がいるわけです。

結局、メディア及びネット好きオッサンは「ネットを使って何か面白そうなことをやっている若者」を紹介し、その後消費するだけし、その人がどれだけ炎上しようが「ケッ、知ったこっちゃねぇ」とやっているわけです。自分自身もその渦の中にこの14年間い続けたわけで、上記のような若者の人生をずっと見てきたわけです。

今回のTehuさんの本は、見事なまでにこの構図と欺瞞を暴露するとともに、そこに振り回された25歳の青年が本当に大切なものが何かに気付いた、というストーリーになっている。

こうした点を踏まえると、アマゾンにおける低評価レビューというものは「あなたには合わなかったのですね」と思えることでしょう。私にとっては

★★★★★

です。

いいなと思ったら応援しよう!