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プロローグ

僕は、田舎にある印刷会社でホームページ制作の仕事をしている。妻は、同じ会社で情報誌の編集長をしている。僕らには9歳になる娘がいる。贅沢ではないが、貧しい生活でもなかった。街からすぐに山が見え、その山の麓に一軒家を借り、家族3人で暮らしていた。

四季がはっきりしていて、冬には雪が降る。だから、春を待ち遠しく思う。初夏の草木が芽吹く雰囲気も好きだ。

同じような毎日を、平々凡々と過ごしていた。僕はそれだけで十分幸せだった。多少、会社の業績に不安は抱えていたものの、それでも家族が幸せに暮らすためには、仕事に打ち込まなければならなかった。

僕の両親は健在だが、同居はしていない。同居しても結局、家を出る羽目になるだろうから、はじめから別居をしていた。そのほうがお互い幸せだ。妻の両親も健在だが、今住んでいるところからは、結構遠いのでそんなにちょくちょく行けるような感じでもなかった。

妻との出会いは、転職で今の会社に入社したとき。入社当時、妻は東京帰りの僕を意識していたようだが、僕は何も感じなかった。そのころ僕には東京に彼女がいた。結局その彼女とは、遠距離恋愛がうまくいかずに別れたが。

別れたことを知ってか知らずか、その直後、妻から猛烈なアプローチを受け、付き合うことになった。おそらく僕は、失恋した心の隙間を埋めようとしたのかもしれない。ただその頃の妻は、太っていたし外見に気を使う様子もなく、部屋に行けばゴミ屋敷。いろんな意味で重たくて、一度別れた。

その後、少し距離を置いたが、ちょっとした事がキッカケで再度付き合うことになった。お互い20代後半で、結婚適齢期だった。別れていた間、妻はダイエットして多少スリムになっていた。はじめて付き合った時から思っていたが、価値観が合うことと、何より一緒に居て楽しかった。妻となら、楽しい家庭が築けるだろうと思い、結婚を決意した。

部屋の片付けや整理整頓が苦手な妻の代わりに、掃除は一生するしかないと覚悟を決めた瞬間でもあった。基本的に妻は部屋を片付けられない。結婚してから多少片付けられるようになっていったが。

社内結婚だったので周りからは、かなり驚かれた。それ以上に「なぜ妻なのか?」と聞かれたが、「理由は努力家なところと、一緒に居て楽しいところ」と答えた。それと、外見はお世辞にも綺麗とは言えないので、浮気はないだろうとも思っていた。そして何より、僕のことが一番好きだと言っていた。僕と結婚することが妻の幸せだと思っていた。結婚するだけで妻を幸せにできるのなら、本望だった。

婚約当時は僕のほうが痩せていて、若々しかった。今の僕はというと、脂肪もついてぽっちゃりおじさんになっている。
そして、妻は反対に15kg痩せた。そしておそろしく綺麗になった。
実年齢より10歳若くも見える。誰もが羨む美しい妻になった。

今の二人のイメージに近いのは、田中哲司と仲間由紀恵。

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中江兆史
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