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174日目

調停3回目。おそらく今日で決着がつく。

懸案事項だった保険については証書を再発行してもらい、コピーを弁護士に送ってある。

どうも、500万という金額ばかり覚えていたが、実際は死亡保障として500万円で、満期解約時には300万円だった。そして満期まであと5年。

これまで僕が払い込みしてきた事を考えると、名義変更して彼女が5年だけ支払いすれば、300万円手に入るわけだ。それを借金の返済に当てれば全てチャラになる。そんな想定なのだろう。
あてにしていることは間違いない。

予定通り調停は始まり、いつものメンバーが顔を合わせる。調停というのも不思議なもので、だいたい1ヶ月おきに会って話をしていく。
もっと早く進めればいいのにと思ってしまうが、関係者全ての予定を合わせなければならない。また裁判所の予定で、結果的にそうなってしまうようだった。連日この手の話が裁判所では尽きないのだろう。

前回、予定調整をした時、同じ月内で調停をしようとしたが、結果的に予定が合わず、いつも通り約1ヶ月後の予定に落ち着いてしまった。

申立をしてから4ヶ月。
離婚を決意してから5ヶ月。
不倫の発覚から6ヶ月。

当初に比べると気持ちもだいぶ落ち着いてきた。
しかし、毎日が寂しい人生になってしまった。

悲しみも、怒りもどこにもぶつけようがない。怒りは身を滅ぼす。そして周りにも少なからず影響を及ぼす。

前回の確認とこれからの流れの説明を受け、調停は開始された。

調停は、調停員が双方の話を聞きながら、まとめていく。申立人と相手方の部屋を行ったり来たりするので、やたらと時間がかかる。

調停員が相手方のところに行っている間、待合室で待つことになる。縦に6畳程度の部屋に長椅子が3本と、部屋の隅にベビーベッドが置かれている。申立人に乳飲み子がいるときに使うのだろう。そして、そうした事件もたくさんあるのだろう。

そんな中で、同じようなに相手方への聴取を待っている間、申立人と弁護士がその部屋で待っている。今日は自分たちも含めて4組ほどいた。

待っている間に、打合せをするのはどこも同じようだ。
調停の内容は、金銭トラブル、離婚、土地や財産問題など様々だ。何度もこの部屋に訪れ、僕と同じような申立人を見てきたが、その時見ている限り、離婚は女性が申立人になっていた。

僕のように夫が申立人になるケースは少なからずあるだろうが、一般的に見てまだ特殊なケースなのだろう。

そんなことを考えていたら、また呼ばれたので、調停員の部屋に弁護士と二人戻った。思ったより呼び出しが早かった。

その後、どのように話がまとまったかだけを簡単に説明していく。

保険に関しては、学資保険だと思っていたものが実は解約返戻金特約付終身保険だったので、性質が違う。結果として、名義変更はしないことになった。
また、財産分与に関しては双方が主張しないため、行わないことになる。
相手方の慰謝料については、支払い可能相当額として20万円と言われているので、そのまま了承する代わりに、保険に関しての関与は認めないことを条件とした。

だいたいこれで話が片付きそうだったのだが、婚姻費用について、今月分も同額払って欲しいと要望があったそうだ。
婚姻費用と養育費には2万円の差がある。僕にとっては、別に払ってもいい金額だが、その魂胆が見えたので非常に腹が立った。

仮に僕が、支払いたくないと言えば、相手方がゴネて話が長引き、結果として決着がまた先延ばしされる。そうすると、必然的に婚姻期間が伸びるので払わざるを得ない。
こんなのは、全く公平ではない。
誰がこの発想をしたのかはわからない。相手方の弁護士の入れ知恵かもしれないが、それでも身勝手極まりない。子供を盾にする行為にとても苛立った。結局は自分の都合だ。
保険の件もそうだが、子供の為と言いながら、自分の都合を優先させる。実際この10年間ずっとそうだった。子供をダシに使う。
自分が最優先という考え方は、この先変わるのだろうか?

「今のお話は、受け入れることは出来ません。今回の事件の原因を作ったのは彼女です。仮に僕が、今月婚姻費用を払いたくないと言ったら、またそこでゴネられますよね。

そして、調停が長引き結果として婚姻費用を払わざるを得ない状況になりませんか?これは、もはや交渉というより選択肢のない強要です。

ここまで、相手方の意向に沿ってこちらも様々な条件を飲んできました。しかし、今回の事件の発端は彼女にあるのです。法的に罰することありませんが、少なくとも罪の意識は持ってもらいたいのです。

そして、子供をダシに使うような交渉を到底受け入れることは出来ないのです。もし、それでもというのであれば、公平性が失われるのではないでしょうか?

この場にいる皆さんのように法律に関わる方は、公平性を心情に仕事をしていると僕は信じています。」

と、調停員に伝えた。
理由と状況を話している時、女性の調整員は苛立ちを隠せずに、手の甲を爪で何度も掻いていた。
今回の事件においては、相手方に非がある。にもかかわらず、権利を主張しそれがあたかも正当であるような錯覚を覚えさせる。
これが果たして公平だろうか?

もしそれがまかり通るのなら、日本は法治国家としての機能に著しく問題があると思う。

しかし、それは杞憂だった。

調停員がちゃんと話してくれたようだった。
予定通り今月から養育費の支払いのみになる。

最後に、裁判官と書記官が同席し、調停書の作成確認を行った。

最終的には調停書としてまとめられ、各条項に違反した場合、取り決め通りに履行されていないとして双方どちらからでもまた申し立てができるようになる。

今月末に残りの慰謝料の払い込みがされるが、そんなことはもうどうでもよかった。

これまで借金の補填に追われて四苦八苦してきたが、お金には余裕が出きた。基本的今でも無駄に使わないので、溜まる一方だ。
結婚当初はお金の面では多少苦労もしたが、その時は2人で何とかやりくりしてきた。今思うと、その時が一番夫婦だったと思う。

お金が悪いわけではない。ただ、欲に溺れると身を滅ぼす。

清貧は人の絆を深め、我欲は人を孤独にする。

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中江兆史
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