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93日目

床屋をやっている友達にところに行った。
ここ数ヶ月、いろいろと忙しかったので髪を切る暇と、心に余裕がなかった。
床屋の彼とは小学校の時からの付き合いなので30年以上の付き合いになる。
付き合いが長いこともさることながら、今までいろんな相談や話を包み隠さず話してきた仲だ。

今回の件は、友だちの誰にも言っていない。
床屋の友だちが一番始めになるだろう。

髪を切っている最中に
「実は離婚することになった」
と打ち明けた。

友達の手が止まった。それから空中を見て動きも止まった。
沈黙が流れた。

かなり驚いたようだった。

「理由聞いてもいいかな?」

事の顛末を話していった。途中何度も手が止まった。
その日一番最後の客だったので、誰も居ない店内で、事情をすべて話した。

「もう、絶対も出れない?無理?」
と聞くので、無理だと答えた。

彼の両親も離婚している。しかも小学校2年生のときに。
でも彼はいつも明るくて一緒に居て楽しかった。友だちも自分も含めて数人居た。
片親だからと思ったことは一度もなかった。
でも彼は、今まで片親だったことで苦労したことや、周りにすごく気を使うようになったことなどを話してきた。いままでそんな話を聞いたことはなかった。
両親の離婚理由も話してくれた。

離婚については誰も話したがらない。
詳しく聞いても面白い話ではない。

同じ境遇の人にしかそれはわからない。

ずっと話をしていた時、彼の慰謝料の金額をきいて少なすぎると言っていた。
もっと追い詰めてやるべきだと。僕以上に頭にきていたようだ。

僕は不倫はお互い様だと思う。
もちろん、男性側に問題があっただろう。しかし、それに応じた妻にも責任はある。

彼の家庭も壊さないと気がすまないも言っていた。
僕はそこまで思っていないといった。
向こうにも家族がいる。奥さんと子供がいる。
奥さんはどうかわからないが、子供に責任はない。
僕の娘と同じような子をこれ以上出してくはなかった。

それが一番大きな理由だ。

仕返ししてやりたい気持ちも無いわけではない。
でも、そうしたことがいつまでも続くわけではない。

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中江兆史
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