1枚の「返品了解」の文書から思うこと。
ある書店から1冊の「返品了解」を求める連絡がFAXで届きました。
文書の冒頭に、次のようなことが書かれていました。
「下記の書籍は当店にて販売努力をしてまいりましたが、甲斐なく返品させていただきたいものでざいます。何卒、特別のご配慮により返品受領・入帖を賜りたくご確認くださいますようお願い申し上げます」
こういうのを「慇懃無礼」というのだと思います。
・「販売努力」の具体的な内容が全く分からない。
・「甲斐なく」し、「販売努力の甲斐なく」とかかるかと思われるが、前段の内容が何もないため、「甲斐なく」が虚しく響く。
・「何卒、特別のご配慮」「返品受領・入帖を賜りたく」「ご確認くださいますよう」「お願い申し上げます」-過剰な丁寧言葉のオンパレードに、逆に心を全く感じない。
最初に誰かがこの書式をつくり、以降は、内容については顧みられることもなく、機械的に書名等を記入してFAXしているのでしょう。
文書を作成し、FAXで送られた担当の方は、一度、冒頭の文を改めて読んでいただき、受け取った人がどのような思いをもつか想像してみてほしいのです。
私は、これは「書店の今日的状況」を象徴的に示しているものの一つだと思います。
流通の仕組みに問題があるという指摘はその通りだと思います。
ただ、その仕組みを自分のものにして価値あるものにされている方がいらっしゃるのも事実です。
それぞれの持ち場で、ルーティーン化した仕事を脱し、一つひとつが意味をもったものに転換していかなくては、出版という仕事は消えていきます。