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藤平伸氏 ~陶の詩人~

小代焼中平窯の西川です(^^)
今日は陶芸家・藤平伸氏をご紹介します。

私は基本的に昭和に活躍された茶陶や和食器系の陶芸家達が好きなのですが、藤平氏はちょっと毛色の違う作家さんです。

藤平氏の作品に接すると、私自身の子供の頃を思い出すような感覚がありまして、勝手に強い共感を抱いています。

そういう意味では、私にとっては特別な、唯一無二な陶芸家です。


藤平伸氏




藤平伸氏の経歴



まず、簡単に藤平氏の経歴についてご紹介します。

藤平氏は1922年(大正11年)に京都の製陶所に生まれ、生涯京都を拠点に活躍されました。

20歳の時に結核を患い、兵役を免除され闘病生活を送られます。
ボロボロであった身体も数年掛けて徐々に回復されてゆき、20代後半から実家製陶所の一角にて制作をスタートされました。

また、工芸への造詣の深いY氏より借りた『井戸茶碗』が、意外にも藤平氏の陶芸活動の原点でありました。



轆轤の生み出す形への感覚把握。
はじめていただいた教示は有り難いものであった。
私の陶芸への道はかくして「井戸茶碗」から始まったことになる。

藤平伸





31歳で日展への初入選を皮切りに、陶芸界で著名な賞をいくつも受賞されます。

特に1973年日本陶磁協会賞、1998年日本陶磁協会賞金賞の受賞は藤平氏の、日本陶芸界への多大な貢献を意味しています。

2012年に89歳で惜しまれつつお亡くなりになりました。



作品について


器も作られていますが、オブジェ等の立体作品が特に目をひきます。
制作年代によって、作品のモチーフはかなり移り変わっていったようです。

人間や動物を具体的な姿で表現しつつ、藤平氏独自の造形感覚が見受けられます。
特に後年の陶彫作品群は表層的なテクニックや頭でっかちの理論を超えた、深い味わいがあります。

そして何と言っても、作品の色彩が淡くて切なくて、ノスタルジーを感じるんです。

個人的には造形よりも色彩に、藤平氏の特色が強く表れているように思います。

春の穏やかな暖かさや冬の深夜のような冷たさ、そしてその空気の匂いまで感じるような情緒豊かな作品達です。


『太郎の雪』



自分の幼少期と



菊地寛実記念智美術館で開催されていた展示会『夢つむぐ人 藤平伸の世界』を見て以来、年に何度かその図録を見返しています。

図録によると開催時期は2015年、私が大学4年生の頃だったようです。



『蓋を開ければ』


この作品を見た時に、パァーっと幼い頃の記憶が甦りました。
私が保育園か小学低学年の頃、似たようなものを遊びで作っていたのです。

森の中に色んな妖怪達がいる様子を妄想し、それを形にしていました。

ずっとずっと昔のことですのですっかり忘れていましたが、藤平氏の作品を見た時に、幼い頃の仕事場の景色や夢中で粘土をいじくっていた感覚までハッキリと思い出しました。




現在でも好きで窯元という仕事をしているのですが、もともとは、もっともっと単純に、純粋に、粘土の塊から何かの形を作る喜びがあったんだと。

そして、それこそが本当に大切なことだったんじゃないかと思うのです。

このような気持ちを思い出させてくれた藤平氏に、心の中でとても感謝しています。



2024年10月3日(木) 西川智成

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