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「この人前頭葉だから」~本当にあった悲惨な医療∼


脳卒中後の患者さんに対して「この人、前頭葉だから。」この発言している方周りにいませんか?

控えめに言って、「私は、大嫌いです。」
しっかりと勉強していない、セラピストもしくは医療職の方でよくみられると思います。


「前頭葉だから。」


依然、本当にあったあり得ない話について、書きたいと思います。


多くの方、特に医療関係者の方に伝えたい内容です。
専門的な内容も含みますが、できる限りわかりやすく書いたつもりなので、ぜひ読んでみてください。



前頭葉とは?

前頭葉とは脳の前側の領域です。

そして、そこにはたくさんの機能があります。

こちらは、すごく簡単にまとめた脳機能の図になります。

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御覧いただける通り、前頭葉には

・運動
・情動
・転換
・思考

など大きくまとめてこのような働きがあります。


ここでは情動や思考などが関与するため、脳血管障害で前頭葉の機能低下を起こすと、“人格の破綻”などが起きてしまう可能性があり、性格が変わってしまい今までよりも怒りっぽくなったり、泣きやすかったり、感情の制御が難しくなったりする可能性があります。

そのため、医療職の中には「あの人、前頭葉だから…」という方も珍しくないと思います。


このことが、残念な結果を招きました。


残念なセラピスト


当時、私は理学療法士として2年目の夏ごろだったので、浅い知識ではありましたが、脳画像の勉強を結構していました。
そして、ある程度、その知識を病態の把握に役立たせることができるようになっていました。


その中で、ある脳出血で入院されている患者さんと出会いました。


その方は、言葉を話せないこともあったためか、怒りっぽく何か支持をしても反応が悪く、誰か医療者が来たら手や足を掴むなど、医療者に対してやや反抗的な態度をしていました。

しかし、その方は、私の担当患者さんではなかったため、てっきりその様子から「前頭葉損傷や認知能力低下の可能性」を考えていました。


そして、医療者もまたその方への対応は、子供を扱うようだったり、何か訴えても無視をするようになったりしていました。

「この人、前頭葉だから。」と。

医療現場では、全ての方につきっきりでずっと対応できるわけではないということもあり、対応が疎かになることが多々あります。

対応が困難で、意思疎通が難しい方だったため。

病棟では、放置。

リハビリでは、歩きの練習もしくは、マッサージ、のみでした。

そもそも、その状態だとしても対応自体間違っていると思いますが、とにかく子供と遊んでいるかのような扱いで、やや冷やかしにも捉えられるような対応でした。


しかし、その時は、担当の方ではなかったこともあり、深くは考えませんでした。
ケアの観点でも「対応が難しい」ことや、認知面の問題があることによるコミュニケーションの欠如、それが影響して理学療法士としての治療にも多少は限界があることから。


「この状況も、仕方ないのかな。」と思っていました。



そして、たまたま代理で入ったリハビリの時のことです。

情報収集として、リハビリ前に、脳画像を確認してみました。

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すると、反抗的な態度で情緒不安定だったため、前頭葉に影響があると思っていたその方は、明らかな頭頂葉の出血でした。


前頭葉損傷ではなかったのです。


つまり、どういうことかというと、この画像から、
「その方は、認知能力の低下などの可能性は少なく、意思疎通やその状況の“理解”ができる可能性がある」と考えられました。

されていること全て理解している可能性があるということでした。


問題があるとすれば “空間把握” や “身体への問題” などがあげられる。
しかし、意思疎通はしっかりできる可能性があるということです。


そして、そのことがわかったため、行動の観察と積極的に「はい」か「いいえ」で答えるようなコミュニケーションをしました。頭の動きだけで答えられます。

そして、今の症状の可能性を考え、「これが怖いですよね?」「これだとできますよね?」など予測に基づいた声掛けで共感するよう、リハビリをしました。


すると、今まで怒っていた患者さんは、積極的に返事(首でのうなずき、横ふり)を返してくれリハビリにも積極的に取り組む姿が見られました。


このことから、

・話せないことのいらだち
・医療者の態度
・自分のことを理解してもらえない
・現在の状況に対する不安
・医療者の対応への苛立ち

さまざまなことから、反抗的な態度や問題行動が生じていたこと。
そしてその問題行動は、 “医療者が生み出していたこと” を、その時理解しました。


何かを掴むのも空間の理解が乏しく怖いから、いろいろと訴えても届かない苛立ち、医療者に無視され、子供のように扱われ。


こういう現状に対するストレスから、行動がより不穏な状態になったと考えました。


今後、認知症に関しても記事を書こうと思いますが、
「患者さんの行動は、ほぼ環境や対人関係のよるものです。」
つまり、外から受けて、それを感じとり、表出した、反応です。


何が原因で、その態度をとったのか。

それは、病気で今まで普通だったものがいっぺんに変わり、怖く、誰かに助けて欲しい、そこから訴えたのに。わかってもらえない。

想像してみてください、自分が今いる空間が歪んで見えていることを。ものの距離がわからないかもしれない。ものがゆがんでいるかもしれない。

実際、どうなっているのか分かりませんが、

普通に、怖すぎます。


そういった状況も考えずにただ治療をしている。適当な対応をしている理学療法士がいることを、非常に残念に思いました。


最後に

アンチっぽくなりましたが、これはものすごく大事なことだと思います。

全てを理解しろというわけではなく、「何でこの人はこんな態度をしているのか」と疑問に思い、想像することが大切だと思いました。

勉強をしない医療者は、素人と同じです。

自分の見たまんまのことや感覚、経験だけではなく、
「医学的所見も交え、その可能性からしっかりと評価することが大事だと思います。」


運動器、脳血管、内部疾患、小児など様々な分野がある中で、自分のやりたい分野だけを勉強することは非常に身勝手だと考えます。

色んな治療の仕方、解釈があり、絶対的な間違いというものを伝える方が難しい医療です。だからこそ、私はあまり、他の人の治療にとやかく言いません。


しかし、このことはさすがに呆れました。


問題は、評価をしてその人を診なかったことにあります。

初めから「前頭葉だから」と決めつけ、コミュニケーションをしっかりと取らない。その人の訴えをまともに聞かない。

こんなこと、誰でもできます。
その人が自分の家族なら、その人のことを意識してみると思います。

医療者ならなおさら、その知識を活かして、いろんな可能性を診るべきだったのではないかと思った出来事でした。



今日もお立ち寄りありがとうございました! ではまた(^^)/!

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