僕に踏まれた町と僕が踏まれた町

 タイトルは、最初に読んでから20年になる中島らものエッセイである。最初に読んだのは「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」「僕にはわからない」だった記憶。

 中島らもは「今夜全てのバーで」「中島らもの明るい悩み相談室」あたりが代表的だが、このエッセイもたまに挙がる…と紹介していると「中島らも詳しいんですねぇ」と言われそうだが、これらのタイトルを通読した自信がないくらいには、かじり読みした程度ではある。

 ただ、かじり読みした部分は今でも頭に残り続けているところからすると、かなり好きな作家なんだと思う。「固形物で栄養が取れないから酒でカロリーを摂るしかなく~」なんて話を聞いたときは自分もやってみようと思ってしまったくらい。引用の「括弧書き」はうろ覚え。結果、3日か一週間で挫折した。必要カロリーを取れるほどには酒は摂れない。そこまでアルコールが得意ではないのだ。「躁鬱で、アルコールがないと幽霊の出るような文章しかかけないのはまずいから、文章を書くための酒があり…また、人と付き合うための酒があり…」という話を読んだときは、見習って一日を酒浸りで過ごしたときもあった(当時、精神衛生もそこまで良くなかった)。そんな経験をしながら、巷の中高生に中島らもを勧めていた悪い時期もあった。その人は「はい!読んでみます!」と言っていた気がするが、半ばハマりそうな人ではあったから、ちょっと悪いことをしたと思っていたりもする。だいぶ昔の話だが、あまり堕落していないことを祈る。

 久々に電車で「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」を読んだ。
(「僕にはわからない」は実家のどっかに眠っている。)
自分が大体読むのは、「第4章 モラトリアムの闇」で、灘校入学から浪人時代、社会人になるかならないかくらいまでの内容で、中でも一番読んでしまうのは「入試地獄」と「浪々の身」。浪々の身は文字通り、大学入学前の浪人時代のお話である。多分、自分にとって読みやすい部分なのだろう。灘校を8番で入ったところから、神戸大学や大阪芸大を受験した話、試験を夢に見る話あたり。
 この本を読んだ人が度々引用する、「何十年に一回くらいしかないかもしれないが、『生きていてよかった』と思う夜がある。」あたりは「浪々の身」の中の一文である。ただ、この話を読むたびに、「生きていてよかった」よりも、その話に出ていた浪人生に感情を持っていかれてしまう。未だに自分に影を落としている一面とも思える。そして数ページを割いて書かれているはずの音楽の話はきれいに忘れている。

 俺はこう燃えた、というアツいエッセイも面白いけれども、こういった仄暗い感じ、人生の裏路地を覗き見るような書き物を読むと、不思議と心地よさを感じる。
 この本を初めて読んでから、色んな人に会い、色んな物を書き、色んな経験をしてきたけれども、たまには前いたところに帰ってきてもいいんじゃないかね。早く人間になりたい。

 以上。

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