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「過ぎたるは及ばざるが如し」

「過ぎたるは及ばざるが如し」

お正月にデパートに出かけた。新年の福袋や売り出しでどのフロアーも多くの人で賑わっていた。

最上階のフロアーは、いくつかの催し会場となっていた。その一角には、雛人形が通路に出るほどに飾られていた。

色とりどりの雛人形を見ているだけで、春を感じることができる。


買うあてもなく、雛人形の飾られている催し会場へ入っていった。新年の売り出しのせいだろうか、ここにも多くの人がいた。

生まれて数ヶ月と思われる、まだ話すこともできない赤ちゃんに「どれがいい?」「これ可愛いよね」など声をかけながら若い夫婦が雛人形を選んでいた。その夫婦の横には店員さんがずっと一緒にいる。

女性の店員さんは若い夫婦の隣でとても詳しく丁寧に、お雛様のいわれやそこに飾られている品々の意味の説明を始めた。若い夫婦も一つひとつの説明にうなずきながら聞いていた。

店員さんの説明はどんどん熱がはいってきて、ますます早口で話し始めた。お雛様を選ぶどころではなくなってきた夫婦はただただ店員さんの説明を聞いていた。

店の奥から店員さんが呼ばれた。電話が入ったようだった。ほっとしたようすの若い夫婦。赤ちゃんを抱きながら、二人で選んだ雛人形は、小さな玄関にも置くことができるものだった。
二人の会話から狭いアパート住まいだと分かった。どこに置くことができるかを相談していたのだ。置く場所の大きさもメモして手に持っていた。どんなに狭い家でもこの子のために雛人形を飾ってあげたかったのだ。

二人で決めたお雛さん。
店員を呼び、そのお雛さんを購入することを伝えた。
送り先を書き、送る日を決め、会計をしている時だった。先ほどの店員さんが奥から出てきた。


「あら、決まったのですね。まぁ、可愛いのを選びましたね。きっとお子さんも喜ぶわよ」

「いろいろ説明をしていただき、ありがとうございます」

「あ、そうそう。これもつけたほうがいいわよ」

二人は目を合わせて、会話をした。(それはいいから)と。

「是非これも、お雛様の横においてください。運気があまりますよ」

それでも二人は返事をしなかった。

「お子さんのためにも、私なら買ってあげますよ」

二人は、その店員に顔も向けなくなった。


先ほどまで、お客様に丁寧な説明をされていた店員さんだったが・・・

夫婦の心の中の苛立ちを感じたのだろうか。
抱いていた赤ちゃんがいきなり大きな声で鳴きだした。

「過ぎたるは及ばざるが如し」