「Copilot+PC」の登場,AI業界のゲームチェンジの予兆
マイクロソフトが開発した最新のAI機能を搭載したWindows 11デバイス、コパイロットPC(Copilot+ PC)が話題になっています。
僕はこれを、AIビジネスにおける、大きなゲームチェンジの予兆だと捉えています。「どういうこと?」と聞かれることが多いので、その点について書いてみたいと思います。
コパイロットPC(Copilot+ PC)の特徴
まず、コパイロットPCの特徴は、
NPUについては、別の記事で説明したいので、今回はここまでとします。
さて、周囲の話では、コパイロットPC関連で目を引いたのは、リコール(回顧)機能のデモとのことでした。
リコール(回顧)とは、PCのユーザーが過去にPC上で見た情報や、行った操作を簡単に呼び戻す機能です。
このリコール機能、デモ栄えは凄かったのですが、こんな意見を耳にしました。
「すごいなぁ。2時間見前に見た画面を表示させれるのは便利かもしれないけど、あまり使わないかな?」
「記録されるって…なんだか不安」
Copilot+PCのデモを見た大方のビジネスパーソンの反応は、AIが搭載されたパソコンって、パソコンでChat-GPTを使うのと何が違うの?と感じたようで、あまり期待感は感じられませんでした。
でも、僕は、まったく別のことを感じました。
「あぁ、AIも次のステージに進むんだな」と。
デモ動画から直観した「AI、次のステージ」
僕はこのデモを見て、
①AIビジネスのゲームチェンジが起きること
②お蔵入りにした「AI中山」を復活させること
の2つが頭をよぎりました。
長い内容になると思いますので、今回は手短にPCにAIが搭載されることの意味を記します。また、なるべく1テーマ1記事になるように、周辺情報や僕の思うところをまとめていこうと思います。
PCにAI搭載の「真の意味」
PCにAI搭載。このことは、一般的には大きな意味として捉えられていないように感じます。
「今はChat-GPTをはじめとした生成AIアプリがあるので、それを使えばいいんじゃないの?」はユーザーからすれば、もっともな反応です。また、「もしSiriが、ちょっと賢くなれば嬉しいかな」というところでしょうか。
でも、ネット経由で生成AIにアクセスすることと、パソコン内にAIが搭載されていることには、大きな違いがあります。
整理すると、
過去のコパイロットはクラウド依存
「でもコパイロットPCって、今までもあったよね?」という指摘もあると思うので、付け加えます。
それは、今までのコパイロットPC=クラウド依存のAI処理だということ。今まではAI機能の多くがクラウド上で実行されており、ローカルデバイスはその結果を受け取って利用していました。
最新のコパイロットPCはクラウド依存から脱却した、そこが大きなポイントです。
PC内のAIが「学習」すると
さて、深堀りしていきましょう。PC内のAIは、ユーザーがPCを使うごとに「学習」していきます。
ここで提供されるのは、よくいわれる「スマートで直感的なPC体験」…だけでしょうか?
近未来の仕事風景
みなさん、オフィスでの仕事でどんなことをされていますか?
僕は、
・パソコンでオンライン会議
・会議室に自分のPCを持ち込んでのリアル会議
・パワポで資料作成
・メールの作成、返信
・交通費精算 ...等 をよくしています。
リコールの機能は端的に言うと、僕が朝オフィスに来て電源を入れて、オフィス貴社時にシャットダウンするまで、僕がパソコンで何をしたかを記憶しているということです。
これって、つまり、上記のようなことはすべて記憶しているということですから、すなわち、僕の仕事そのものを、毎日AIが記憶して再現できる可能性が見えてきませんか?
近い未来、ビジネスパーソンが、毎日、オフィスで使っている、パーソナルAIと化した自分のPCに、こう命じたとします。
これによって、自分の仕事を、そのままPC搭載のAIに行わせることができます。自分のPC内で完結していますから、社内データや個人的なデータといった、既存の生成AIが網羅しきれない情報についても閲覧可能です。
もちろん、外部のアイデアや知識が必要なときは、インターネット経由で生成AIのサポートを受けるという使い分けをします。
Copilot+PCに組み込まれるAIは何?
そういうわけで、パソコンでChat-GPTが使えることと、Copilot+PCでAIが使えることは根本的に違います。
では、どのようなAIが、Copilot+PCに組み込まれるかというと、Microsoftが自社で開発したLLMならぬSLM(小規模言語モデル)で、名前は、「Phi Silica」と言います。
SMLは、Chat-GPT4が1兆パラメーター(?)と大規模なのに比べて、大きくても70億パラメーターと、大きさが、1/1000と小さいのです。小さい故に、推論時に、計算がすぐできるため、パソコンのNPUのような小さなチップでも動くのです。
パソコンのNPUでも動かせる程度の小規模言語モデルは、現時点、OpenAIは持っていません。
ですので、Microsoftは、「Phi Silica」と、そのAI機能とWindowsアプリをつなげる「Windows Copilot Library」を自社で開発して、Windowsに組み込んでいるのです。
この「Windows Copilot Library」というインターフェース経由で、パソコンのアプリケーション(例えば、SLACKのようなデスクトップアプリ)開発ベンダーは、AIを利用したアプリを開発できるようになります。
ちょっと話が技術的に難しいお話になってしまいましたね(笑)
要するに、Copilot+PCにAI「Phi Silica」を、Microsoftが組み込む理由は、
・パソコン内のアプリやデーターをAIでコントロールできるようにする
・パソコンのAIを利用したアプリを、アプリ開発ベンダーに開発させる
という2つの目的と意味があるのです。
これを実現するには、Chat-GPTは使えないのですね。
そして、この2つが進化していくと、パソコンでの仕事の生産性やできること、その自動化の世界が、将来待っています。
デモ動画を見て、僕は近い未来に起こる、こうしたビジネスパーソンの日常を思い浮かべました。これが冒頭で述べた ①AIに関して、ものすごいことが起きるです。
この、Copilot+PCについて、そしてそれと関連するNPUについて、これ以上ここで書くと、あまりにも長くなります。そこで別の記事で、技術的なこと、ビジネス的な背景を説明します。
AIビジネスのゲームチェンジ-AIの分業制時代
本記事で書いたように、今までの生成AIは、OpenAIやその他大規模言語モデルが、クラウド上で動いていました。それがパソコンやスマホで動くようになる。
そうなると、今後、どのようなことを、パソコンのAI(SML)にさせるか、どのようなことはクラウドのAI(LLM)でさせるか、という、AIの使い分けの時代に突入したのです。
こうなることで、AIの分業制時代が始まりました。
ここに、業務特化型のAIが、オープンソースの中規模なSML(Llama3の8Bモデルなど)で作成され始めていますし、パソコンで動くAIを活用したゲームやビジネスソフトを、今後、ソフトウエア開発ベンダーが開発していくようになります。
今まですべてのアプリはブラウザーで、というのがパソコンアプリの潮流でしたが、これも変わっていくかもしれません。
まさに、群雄割拠のAI時代の幕開けです。ですので、僕は、AIのゲームチェンジが始まると思ったわけですね。
「AI中山」を復活させようと思った理由
今まで述べてきたことは、同じく冒頭で述べた、②お蔵入りにした「AI中山」を復活させるにもつながります。
こうした世界観においては、自分のPCを使って日々の仕事をすること=自分のPCのAIの精度を高めていくこと=「AI中山」の強化、につながっていくからです。
コパイロットPCの「買い替え問題」も別記事で
ところで、コパイロットPCはそのPCの中だけで完結している世界、となると、「PCを買い替えたとき、どうなるの?」という疑問も浮かんできます。つまり、「PCを買い替えるとき、自分用にカスタマイズしたAIを、新しいPCに移植できるの?(できないと困る)」です。
それについても、いずれ考察していきます。
次回「なぜApple社がOpenAIと組むのか」
これらのことから、ビジネス面からも読めることがあります。
なぜApple社がOpenAIと組むのか。
僕はこれについても、そうならざるを得ないだろうと思っており、その通りになってきました。
次の記事では、このテーマについて語ります。