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ポケモンガーデン最頻出単語「きん タマタマ」

ポケモンガーデン、覚えていますか?

もはやスクショは個人のブログにしかないので、まずは各自画像検索で調べて懐かしさに浸ってほしいです。


2006年から2009年までYahoo!きっず内に開設されていた、インターネット上の「ポケモンテーマパーク」、それがポケモンガーデンでした。

ユーザーは二頭身アバターを使って4階まである建物を自由に歩き、様々な展示物やゲームを楽しむことができました。

しかしこのポケモンガーデンが流行した理由は、そのコンテンツの充実以外にありました。


ここでは、ユーザーがある程度自由に会話できる機能、つまりチャット機能を搭載していたのです。

きっずのボリューム層と思われる小学生達は、私を含めて興奮していました。
全国のポケモントレーナー達と、自由に会話ができる。まさに理想郷でした。


そして同じく、別の意味で興奮している人達がいました。

出会い厨です。

別にきっずでもない年齢層の出会い厨達も同じく、ポケモンガーデンに溜まり始めました。


出会い厨と小学生の邂逅。
その結果何が起きたか。


ポケモンガーデンのあちこちで、「きん タマタマ」という怪文が現れるようになったのです。



ゲームにはルールがあります。それは、ゲームとはルールのなかでどうすれば最大限のパフォーマンスを出せるかを試行錯誤する遊びだからです。


「遊び」について研究した社会学者ロジェ・カイヨワは、著作『遊びと人間』において、遊びとは「パイディア」と「ルドゥス」という二極の間で行われる活動のことであると定義付けました。

一言で乱暴に説明すると、パイディアは「ルールから逸脱しようとする意志」で、ルドゥスは「ルールを順守しようとする意志」です。つまりもっと言い換えれば、パイディアは「無秩序」ルドゥスは「秩序」のことです。

ルールの制限度合いを割合で示した時に、0%側がパイディア、100%側がルドゥスであるとすると、完全なパイディア的活動とはもはや「騒ぎ」でしかなく、完全なルドゥス的活動とはすなわち「競技」となります。
この極端な両例でなく、「ある程度ルールがあり、そのなかでいかに工夫して/偶然性を呼び込んで“楽しむ”か」といった活動のことがつまり、カイヨワのいう「遊び」です。


ゲームとはまさにそれを体現したようなコンテンツで、あらかじめ作られたゲーム(作品環境そのものはもちろん、そこに搭載されている機能やルール)という枠組みの中で、プレイヤーは「自分らしく」遊びます。
チュートリアルで示された通りにプレイするもよし、ゲーム内に見つけた自分だけの魅力を求め続けたり、裏技を見つけるためにあらゆる方法を試したりといった寄り道も可能ですし、当然メーカーが推奨する以外の遊び方を実行することもできるでしょう。
プレイングとは究極的に「人それぞれ」なのです。


そう、ポケモンガーデンとはまさに「人それぞれ」のコンテンツでした。

そもそも「ポケモンガーデン」という環境自体はただのゲームではありません。
その環境の中にファイアレッド・リーフグリーンのミニゲームやじゃんけんバトルといったゲームが含まれているのであり、他のフロアには、設定資料やイラストの公開、ポケモンの歴史を体験できるツアーなんかも取り揃えていました。
何よりポケモンガーデンの醍醐味とは、「ユーザーがチャットで会話できる」ことでした。


ただし、これはあくまで「Yahoo!きっず」のコンテンツ。
風紀を守るために、チャットは厳密に自由な発言ができるものにはされませんでした。

そのチャットの仕様とは、「あらかじめ用意された単語から2つ組み合わせて発言できる」というものでした。

基本的な語彙に加えてポケモン用語が並べられており、実際簡易的なコミュニケーションならば事足りるものではありました。

「おーい こんにちは」とか、「オッケー ありがとう」とか、「ブースター かわいい」とか、「ブースター かっこいい」とか、「ブースター つよい」とか、「ブースター さいこう」とか、「ブースター ブースター」といったような感じです。

最初の内は、挨拶しようだったり、このポケモンどう思うだったり、平和なコミュニケーションが交わされていました。

しかし、インターネットでそのような平和はすぐに崩されるものです。

この単語とこの単語を組み合わせれば、穏やかじゃない発言も可能なのではないか、そういった実験が、ポケモンガーデンの中で次々と行われるようになりました。


チャット機能が搭載されているサービスに必ず出現する出会い厨。

多くの出会い厨の目的は「チャH」です。
これはチャットの文面上で疑似性行為を試みるものです。
「あんあん」とか言ってるだけで双方満足なのです。

それを見境なく成人向けでないサービスのチャットでも行おうとするので、多くの運営は最初から性的な単語を発言できないようにしていました。

そうした制限を掻い潜るのが、隠語です。

いかにも一般的な言葉を性的な意味として用いれば、一般向けサービスでもチャHは十分成立します。

仮に運営がその言葉を制限すると、日常会話レベルの語彙ゆえにチャット自体が大きく阻害されてしまうので、運営にとってはそうしたユーザーを特定してBANするくらいしか対抗策はありませんでした。

その単語がギリギリ普段から使われない言葉だったとして、それを規制したとしても、その数分後には新たな隠語が生まれます。

そのいたちごっこを繰り返していくと、やがてかなり一般的な語彙を隠語にするようになるので、上述の通りやはり運営は特定のユーザーに対応していくしかなくなります。

しかし、出会い厨は懲りずに、BANされてもすぐに新しいアカウントを作って潜り込む……というように、一般コンテンツにおけるチャHは、多くの運営の頭を悩ませていました。


さてポケモンガーデンは、そもそも最初から会話に使える言葉自体をあらかじめ用意しました。

しかしその言葉の数が結構多かったので、隠語に仕立て上げられるものも一定数存在していました。

出会い厨は喜び、どのような言葉を用いれば、いかにエロい会話ができるのかを模索し始めました。


まず、なんなら隠語じゃなくても使われる「いく」や「きて」は頻繁に使用されました。

しかし、動詞や形容詞にあたる単語が多くあっても、肝心な「性的物体」に代わる言葉は、語彙リストのなかに含まれていない。

ならば、それ以外の名詞を使うしかない。

彼らは妄想力の塊です。特徴的な単語、つまりポケモンの名前に目を付けました。

このポケモンの名前って、捉えようによっちゃヤラシイよな。

そういった閃きによって、日々新たな隠語が生み出され、あっという間にポケモン隠語語録が充実していきました。


そして、その中でも圧倒的な使用率を誇ったのが、この2体のポケモン。

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キノココ」と「タマタマ」です。


「キノココ」とは「キノコ」ですから、アレです。

「キノココ おおきい」、「キノココ みせて」、「キノココ あつい」、「キノココ クサイハナ」等、多くの言葉がキノココと組み合わさって卑猥な文章を作り出しました。


そして「タマタマ」とは、……タマタマです。

これは非情なまでに率直にタマタマなので、小学生にも大ウケしました。

「キノココ」が小学生に分かりにくくても、「タマタマ」はあまりにも直球(失礼)なので、男児はみんな使います

その結果、フロアに溢れるタマタマだいすきクラブ一同

出会い厨も小学生男児も、一緒くたです。


幸か不幸か、単語欄には「きん」という単語がありました。(ちなみに「ぎん」もあったので、「ぎん ぎん」もよく言われていました)

するとどうなるか。


「きん タマタマ」の誕生です。


ポケモンガーデンの至る所で「きん タマタマ」という叫びが勃発する始末です。

小学生と出会い厨に共通している唯一の関心事とはつまり、「きん タマ」だったのです。


今考えると、馬鹿みたいだけど、実際これこそが遊びの本質を垣間見せているのではないか、と気付きます。

彼らは、主にポケモンの名前を使って、本来想定されていないあらたな文脈を創り出そうとしました。

ポケモンガーデンには、限られた語彙を組み合わせ、一つの単語に別の意味を持たせ、ときには単語自体の意味を破棄して文字そのものの繋がりに意味を見い出す、とにかく様々な方法で自由な会話を目指そうとするユーザー達の姿がありました。

制限の中でその制限を掻い潜って想定外の成果を生み出そうとする活動、まさにパイディアとルドゥスのぶつかり合いそのものじゃないですか。

そして「きん タマタマ」という成果の下に、「人それぞれ」の遊び方をしていたユーザーが一つになり、共有財産として使いまくった。

楽しいわけだ、「きん タマタマ」。


さてポケモンガーデンの運営も、すぐに特定単語の組み合わせを次々に禁止していきました。

まず、「いく いく」や「きて きて」はもちろん、「イエス イエス」という米国式の喘ぎまで規制されました。

文字情報の組み合わせパターンでよく使われていたのが、前半の単語が「し」で終わり、後半の単語が「ね」で始まる組み合わせ。
これらは最重要課題として、その組み合わせを取り得るものが一斉に規制されました。

そして組み合わせ界の風評被害ポケモンは「ヒトデマン」です。彼に続く「こ」で始まる単語は全て規制されました。
たとえば「ヒトデマン コロボーシ」という発言は、単語そのままで捉えればもはやなんの意味も成していません。グループが違うのでタマゴも産みません
しかし、ユーザーにとっては十分だったのです。彼らにとって必要な部分は、一続きの文字情報として真ん中にある「マン コ」だけだったのですから。

キノココとタマタマに至っては、その後に続く言葉が捉えようによって大体卑猥になってしまうため、かなり多くの組み合わせが禁止されてしまいました。

ポケモンガーデンではもはや、キノココとタマタマというポケモンについて普通に語り合うことすらできなくなってしまったのです。


なのに、「きん タマザラシ」はスルーでした

きんタマタマはダメで、きんタマ晒しがOKとは一体…?


2009年4月にポケモンガーデンのサービスは終了しました。

小学生は少し大人になったからいいものの、既に大人の出会い厨達はどこへ散っていったのでしょうか。

それはおそらく、ちょうど2009年2月にサービスを開始していたアメーバピグだと思います。自分のアバターを設定できたので、相当捗ったことでしょう。

しかし、PC版アメーバピグはFLASHの廃止もあって、2019年12月にサ終しました。彼等は今どこで誰とチャHしているのだろうか…。


今でも、「限られた情報を最大限に用いて性的な意味を持たせる」という営為は、結構いろんな場所で見かけます。

そういうのを見る度に、思い出すのです。

遊びの庭園、ポケモンガーデンで輝いていた、おじさんの「きん タマタマ」のことを。


キノココとタマタマは両者共にくさタイプを持ちますが、「キノココ くさ」と「タマタマ くさ」は「くさタイプを持つ」以外の何の意味も持ちませんからね。

もし、そのサジェストにそれ以上の「何か」を読み取ってしまったならば、あなたはその瞬間、まさに遊びの本質に足を踏み入れているのです。

今お読みいただいた文章にもれなく「価値」が付与されます