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A:airway 気道の管理
Aは主に胃カメラにおける話になります。
胃カメラの場合にはカメラを入れる時点でA、つまり気道を部分的に障害することになります。
唾液の対処
咽頭麻酔の影響で、口腔内に溜まった唾液を誤嚥する可能性があります。
唾液は何もしなくても自然と口の中に溜まります。
また、特に意識しなくても無意識に嚥下しているので日常生活で気になることはありません。
ですが、喉に麻酔がかかった状態では嚥下機能が障害されていますので、唾液は嚥下できず、口から吐き出す必要があります。
胃カメラ挿入前は自分で出すことができますが、胃カメラを挿入してからは患者さんは勝手には顔を下に向けて唾を吐き出すことができないため医療者側から指示する必要があります。
胃カメラを受けている患者さんは、心理的に
「じっとしていないといけない」と感じておられることが多く、
口の中に唾液が溜まってもうまく出せずに、ひどい時には自分の唾液でゴロゴロとうがいをしてしまっているような状況に遭遇することがあります。
そうなる前に医療者側から、
「顔を天井ではなく床側にむけて唾液をダラダラと出すようにしましょう」
と声かけする必要があります。
あるいは内視鏡モニターを見たがる患者様もいらっしゃると思います。その場合にも唾液を出すように定期的に床側をみて唾液を出すように指示する必要があります。
このような説明は実際に検査を行う内視鏡医から行うべきと考えますが、医療者として同席しているあなたが先に気付いた場合には率先して患者さんへお伝えするようにしてください。
ちなみに顔の向きで内視鏡の操作がしづらくなる事は基本的にありません。
高さは変わるかもしれませんが、検査台の高さで調整するので問題ありません。
嘔吐の対処
胃カメラ検査では当然嘔吐反射が出ます。
特にイレウスチューブ挿入の際など、胃の内容物が残っている状態で検査する際に嘔吐反射が出た場合には嘔吐→吐物の誤嚥→窒息に至る可能性があるため速やかな気道の確保が重要になります。
対応としては唾液の場合と同様に、基本的には顔を床側に向かせることが重要です。
ただし、嘔吐の場合には唾液よりも誤嚥する異物の量が多いため、顔だけでなく体全体をやや腹臥位気味に、回復体位に近い形に持っていく必要がある場合も多いです。
実際に患者さんが胃カメラの最中に嘔吐してしまった場合には、
・内視鏡医はカメラを抜いて応急処置に当たるべきか判断が必要ですし、
・周りのスタッフは全員、気道確保のために体位変換、吸引、異物除去のための道具(マギール鉗子など)の準備
が必要です。
ちなみに…
コラム:喉の麻酔の目的
喉の麻酔の目的は大きく2つあります。
一つは患者さん自身が検査を楽に受けられるようにすること。当然ですね。
もう一つは嘔吐反射を起きづらくするためにすることです。嘔吐反射が起きると胃内に十分に送気できず、観察に時間がかかる要因になります。
嘔吐反射を引き起こさないためには喉の麻酔をしっかりかけることが重要です。
あなたが、嘔吐反射が出やすい、と思っている患者さんは実はなんらかの理由で喉の麻酔がうまくかけられていないだけかもしれません。
場合によってはあなた自身が行った喉の麻酔の方法が誤っている可能性があります。
喉の麻酔に自信が無ければ手技を見直してみましょう。
舌根沈下の対処
鎮静を行って、眠ってからまもなく急激に酸素化が悪化する場合があります。
その場合、大半の症例は舌根沈下が原因で低酸素血症を期待していると考えられます。
徴候としては
いびき様の呼吸音が聞こえる
ことが多いです。(⚠聞こえてないからといって否定はできません)
舌根沈下してしまった場合には窒息状態になっているため1秒でも早く舌根沈下を解除する必要があります。
なによりもまず、回復体位をとるようにしましょう。
ちなみに、胃カメラを挿入している時にはカメラで舌根を押しているので、舌根沈下が起きづらいです。
誤った対処
A:airway 気道に問題が起きた患者さんに対して酸素投与は適切でしょうか?
厳密には適切ではありません。
気道の問題は空気の通り道が詰まっていることが問題です。
酸素を投与したところで、結局肺までその酸素が届かなければ何の意味もありません。
気道に異常がある場合には最優先すべきは気道確保です。
SpO2が下がったからとりあえず酸素投与、という思考回路では患者さんを救えない場合がある、ということは理解しておきましょう。
正しくは、
SpO2が下がったから、気道と呼吸の両方を確認する。
です。
Aのまとめ
結局は、
・回復体位になるように顔を床側に向ける
・口腔内の異物を出させる(唾液も)
の2つを守るだけです。
酸素投与に関して
事前に酸素吸入しておくメリットとして、
窒息した場合にも低酸素による障害が起きるまで時間的な余裕ができます。
当然、窒息が起きないように対処すべきですが、
万が一窒息してしまった場合に、
酸素を取り込めない状態になったとしても事前に酸素吸入しておくことで通常時よりもヘモグロビンに多めに酸素を結合させておけるので、窒息から低酸素状態に至るまでの時間を稼ぐことができます。
手術室で全身麻酔を行う際には、あらかじめ充分量の酸素を吸っておいてもらってから気管挿管を行いますが、同様の理由です。
あらかじめ酸素投与しておくことで、呼吸が止まっていても大丈夫な時間を作ることができます。
内視鏡挿入に伴う息苦しさはやむを得ませんが、胃カメラの場合には通常時よりも酸素化が悪くなる事は間違いないため、基礎疾患などから低酸素になりそうな方に関してはあらかじめ酸素吸入をしていた方が無難です。
また鎮静を行う症例についても前述のとおり、
舌根沈下で窒息を引き起こす可能性があるため、
酸素吸入はスタートからしておく方が良いと思います。
内視鏡挿入してからは各スタッフとも手が空かないことが多いです。酸素吸入のために準備をしたり、酸素カニューレなどを装着するのにも時間や手間がかかるため、事前に酸素吸入をするハードルは低くしておくほうが良いでしょう。