団地の狭間に奴がくる。
あの、狭い敷地にみっちり並べられた
まるでドミノの様に建つコンクリートの行列。
昼間は、子供の声やオバハンの声がやかましく、
そこかしこから聞こえて来る生活音や、良いも悪いも混ざったにおい。
そんな昭和の団地で私は育った
高度成長期の終わり頃。
昼間にうじゃうじゃ居た人々は、夜にはそれぞれの部屋へと片付いて
外は、嘘のように“シン…”となる。
団地生活をされた方ならわかるかもしれないが、
建物の狭間って、昼間は気付かないけれど意外と音が響く。
夜は、ヒソヒソ内緒話もそっと歩く足音も
ベランダでの出来事が耳に入るみたいにホン間近に聞こえて来る。
それも、慣れれば苦でもなく
妄想力を養って、むしろ楽しいものになったりする。
※
ある夜、ひとりで寝ていると…遠くから音が近づいて来た。
ボ ボボボ ボン ボボン
ボボン ボーンボボボボ ボンボンボン
(重低音のリズム)
ボボーン!ボボーン!
ウイーン
(窓が開く音)
ドン!♫バ!ズンズン!バッ♪ズン♪ジャーンジャンジャジャン!バッ♫
(重低音の正体)
「ぅお〜い‼️ Sッ夫ーーーッッ!」
(S夫?)
スパーーーンッ!
(景気よくアルミサッシの窓が開く音)
「おぉーっ! 今行くで、ちょっ待っててくれやー‼️」
(S夫、登場!)
「おー!」
(S夫のお友達了解)
ズパパン♪ン,ザ、ジャジャン。ドン!ドン!ギャーギャギャ♫ドン♪パン
(車の窓開けっ放し。何某かの流行歌らしいが、音量が大きすぎてよく分からない曲)
に合わせて、
ゥオ〜オーゔぁ〜ヴィンヴェおぁぁンーンンゔぁゔぇごぅぅんダァ〜
(音が大きいせいで音程がわからないのか?元々そうなのか?とにかくジャ◯アンな歌声)
リサイタルは続く…
早く出てこいS夫!お友達もご近所みんなも待ってるぞ!
ガシャン!
デデデデ
デデデデ
デデデ
(鉄の扉を飛び出して階段を駆け下りる)
S夫の家は二階にあるんだね。
バン‼️
(ジャ◯アンの車に飛び乗るS夫。)
ぉお〜♫ゔぉ?なに⁉️
あ‼️
ズパパ♪バンバンド♫ジャジャンジャジャン!
ウイーン
ジャン♪ジャ! ボン、ボボンボン♪ボン♪
(急に歌声が止み、窓が閉まったらしく音楽もフェードアウト)
ボボーン!ボーン!ヴォロヴォロゥゥー‼️
(去って行くS夫とジャ◯アンを乗せた、重低音車。)
※
そんな昭和の、
(笑いすぎて)眠れなくなった私の思い出話。
※
※
※
その後、S夫がカーチャンにこっぴどく叱られたのか?
お友達が自分のジャ◯アンリサイタルを知ってしまったからなのか?
重低音車がS夫を迎えに団地に来ることは、
二度となかった。
今頃はいいお父さんになってるのかも知れないなぁ。