簡単には言えない言葉
「うちは食事にこだわりがあります」
新人記者だったころ「施設の”特徴”を教えてください」と、まずは聞いていたものです。すると「食事が…」と伝えてくれる施設がとても多かった。実際、美味しい食事が提供されることは間違いないのでしょう。
今回は、関東にある老人ホームの話です。私は“老舗のプライド”との見出しで記事を書いています。このホームの食堂でみた光景、その後続いた言葉にガツンとやられたのです。
〇白米は「ふつう」「やわらかめ」の2種類。自分で配膳。お代わり自由。計りが置いてあるので、自分で量を調節できる。
〇各テーブルに置かれている調味料が多い:基本、薄めの味付けのため、醤油、酢、塩コショウ、七味がセットされています。ソースもウスターソースとトンカツソースがありました。
〇牛乳は普通のものと低脂肪乳。さらには「Hot」「Cold」。
…ということは、4種類。
この“選択できる余地”のよさ。そして施設長、副施設長に肝が据わっていました。
「老人ホームのコマーシャルはありえない。福祉なのにビジネスになってしまっている。“ホテルなみの接客”とか言いますけど、接客であって、接遇ではないんですよね」
「安心・安全な介護なんて、本来簡単には言えない言葉なんです」
「寝たきりにするのは簡単。残存機能の維持という相手のペースに合わせた根競べでしょうね。余分なところは接しないですよ。大人の集団なのですから。入居者の不満は少ないと思います」
結果的に介護度が下がる入居者さんがいて、施設内の平均介護度は低い数値になる。
ここは、高級老人ホームと言える施設。でも、単に高級なのではありません。人間工学に基づいたハードが備わっていることはもちろん、麻雀、将棋、カラオケ、陶芸教室、プール等々。様々なカルチャー教室も開催されており、質の高い生活を送ることができることでしょう。
だからこそ、入居金や月額利用料ついては丁寧に説明し、利用者の金銭的な懐具合もしっかり把握したうえで、契約を交わしているといいます。つまり「施設側が利用者を選ぶ」ということでもあるんですね。一方的な勧誘をするのではない。その人の靴や時計を見て、把握できる情報があるなら掴む。なぜなら…「声をかけても、後々、(どちらにとっても)負担になるでしょう」
施設長の言葉は続きます。
「預金を崩しながらの生活では“あと何年、生きるんだろう”となる。そういう不安があると、食事を抜いたり、洋服を買わない、出かけない。周りの人ともしゃべらなくなる。ここでは食事時間を長くとっていますが、それはしゃべることで残存機能を維持できるからです。万一、食事を詰まらせるようなことがあったとしても誰かがコールしてくれる。一人で食べていなければ気づける。そういう風に、ここで生活するメリットをきちんと感じてもらいたいんです」
このホームが存在する価値。
正々堂々“質”を提供している。
そう言えると思います。