
弥山登拝 宮島その1 イイ・ヤシロ・チ㊳
宮島に是非とも渡らなければと、半年ほど前から遒く思っていた。瀬戸内沿岸の安穏は此処にお願いするしかない、などと何の根拠もなく思い込んでいたのだ。特にその為には、弥山に登らなくてはいけない、と。降って湧くような思いは、いつも理屈では到底説明の付かないものだ。けれども、それに従って痛い目に遭った試しは無く、むしろその通りに行動してこの身は護られてきた。厄介なことに、達成するまで頭の中に住み着いて、チクチクと催促さえ起こる。そうして、段々にその直感的な思いつきに抗えなくなってきている、わたくしである。
ところで、瀬戸内海には「今のところ」は原発がない。が、豊後水道、四国の西端の伊方には老朽化した原発が中央構造線上に在る。(調査されていないから、活断層の上かどうかわからないという詭弁ものさばるらしいが)さらに、先日には、今後その古びた設備を作られて60年までも延長して稼働させる方針が決まったという吃きの報道もあった。そんなひと昔前の建築技術で作られたシロモノが、地震の活動期中のこれから数十年も、安全管理できるのか、素人ながらとても憂えている。いくらかの意思表示の機会も生かす一方で、神頼みにも力を入れる他ない、「非力な、しかし無力ではない」人の仔としての自主活動である。
このような思い付きと、かねてからの憂慮を伴って、西日本の安全祈願を目指して宮島、弥山登拝に向かった。

宮島口駅からフェリー乗り場の途中にある有名なうえのにネット予約していた穴子飯のお弁当と、コンビニが無い宮島対策として、水のペットボトルをゲットして、乗船。

乗り場ではフェリーと弥山のロープウェイのお得な往復セットペア券を購入して無事、乗船。穏やかな秋の平日、若さあふれる修学旅行生らと10分間の賑やかな船旅を楽しんで、正午前の宮島に上陸できた。

宿で登山支度を調え、厳島神社裏手の無料送迎バスでロープウェイ乗り場まで移動する。
眼下に紅葉と多島美溢れる穏やかな瀬戸内海を見下ろしながらの空中散歩を乗り換え分も合わせて半時間ほど楽しむと、獅子岩駅に到着。そこからはスティックを取り出して、転ばぬ先の杖とたのんで、アッブダウンしながら頂上を目指す。

途中の「きえずの火」の霊火堂で不動明王が見守る前で、沸騰しない不思議なお湯を頂いて、エネルギーチャージ。宮島は、大鳥居の形からもそれと悟れるように、弘法大師空海との関連を強く感じる要所である。奇しくも、来年は空海生誕1250年の区切り年らしい。彼の一族佐伯氏が宮島の社家であるのも意味深い。この前の本堂も空海所縁である。

さて、霊火のお堂で一息入れたあと進むのは、パワフルな磐座が現れるエリア。ダンジョンのメインのようなくぐり石を前にすると、産道のイメージが思い浮かんだ。更に進んで、大岩の狭い間からまるで生まれ落ちるかのように頂上の広場に出た。この日は頭上を戦闘機が轟音を立てて何機も飛び交っていくが、こうして無事登頂出来たことに感謝の念が絶えない。空の安全も覚束ないこの時代、念入りに平和を祈りたいと改めて思う。

頂上では穴子飯のお弁当タイムで美味しく休憩。包み紙のレトロで懐かしい広告なども面白がってのお昼ご飯は最高♪お天気が穏やかなのがとても有難い。「風や空も美味しいおかずだねー」などと他愛のないことを喋りながらの野外食。

さて、実はここからがわたくしたちの本番。厳島神社の奥宮と言われている、御山神社を目指すルートに進むのだ。ところが、そこへ通じる道が分からない。ウロウロしていると、傍らで外国人ハイカーが清掃作業のボランティアさんに道を尋ねて案内されている。慌てて付いていく、わたくしたち。自力では見つかりにくい行き先を知れるタイミングの良さにも、大感謝。
その道に足を踏み入れると、これまでが天空への道であれば、同じ山の道とは思えないような、一転して深海に潜るイメージの空間が拡がっていた。人気がごっそりと削がれて、閑かな虚空から触手が延びて細動する濃やかな英気が魂に補給されるような感覚に、わたくしの心はコレぞイヤシロチと、悦び震える。

磐座から放たれる荘厳だけれども軽やかな波動のようなもののおかげで、ハイキングモードのざわついた心身がカームダウンしていく。

長年の旅友との二人連れは、心丈夫な山歩きである。マップを手にゆるゆると歩めば、目指す社の鳥居が手招きするように眼前に現れた。


誰もいない奥宮に到着した途端、空から日光が明るく差し込んできた。曇天、天気予報では「午後から雨」のこの日に。

社前を温かな陽光がまっすぐに照らし出す合図に、二人の五十路おみなたちはにんまりと笑って顔を見合わせる。「合格らしいね。」と口から言葉が勝手に出てきた。

本殿に順番にご挨拶をしてまわり、国家鎮護を祈る。そして龍神祝詞を奏上する。なんとなく龍神の気配を感じ、この願いを天に届けてもらうために。


実は、この絶壁の上に建つ社に祀られているのは、三鬼とも豊玉姫とも言われているようである。尊敬する偲フ花様のブログを読んで、その考察の深さにいつも感服の念を抱く。↓此処にご紹介させていただく。
いずれにせよ、此処から瀬戸内海の安全を祈るのは、全くに正当なことだと確信できた。何方であれ、聖なる島のこの天空の社に坐ますのは瀬戸内海を統べる御力を有する存在だ。人の仔はその絶対なるものへ意を宣る他ないのだと、思い定めて祈りを捧げる。それが終わるやいなや、空は元の曇天に戻ってしまった。
それだけで、果たして天に通じたか否かは如実には分からない。とにかく、天災も人災も、戦も今のところ瀬戸内には未だ及んでいないことに、少しの間胸を撫で下ろし、この安穏が能う限り続くことを心から願うのである。

最後までお読みくださり、ありがとうございます。和風慶雲。