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マイクロノベルちょいす 006「お疲れサマ」

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糸が見えます。ちょきん。繋ぎ直します。左手の小指から伸びる赤い糸は運命の相手と繋がっています。右手の小指から伸びる白い糸は魂を売った相手に繋がっています。むむっ、これはひどく絡まっている。ちょっと右足のドス黒い糸を切っていいかしら?


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散歩の途中で知り合った神様が、ジョンを撫でながら「これは人間には内緒なんだけど」と愚痴をこぼす日々が続いている。犬としても楽しくはなかったらしく、先日ついに手を噛んだ。「ちくしょう!」それ以降、神様はカラスにエサをやって煙たがられている。


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やあ。ぼくは風邪のようなものだよ。発熱もしないし鼻水も出ないけど、なんとなくしんどくなるよ。仮病? ちがうよ。風邪のようなものだよ。その証拠に感染するよ。やる気を失うよ。イライラするよ。人生がなんとなくつまらないよ。特効薬は、ない。


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「海はいいなあ」思わず口に出ちゃう。海は今日も美しく夕焼けに擬態している。愛されるわけだよ。ぼくも擬態は巧い方だと思うけれど、だからって人間になじめる訳じゃないし、最近ちょっと疲れ気味。明日は少しゆっくりしよう。


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かなり雰囲気が変わっただろう? 秋になって日照時間が短くなったからね。活発に光合成をすることで、色が変わって落ちたんだ。こら、お父さんの頭に登るな。ペタペタ触るんじゃない。お父さんは会社に植えられてもう動けないんだから。

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