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マイクロノベル集/歌うもの 008

071(465)
きみが聴いてくれたから、わたしはここにいます。きみのためだけに歌うよ。きょう新しい歌声が入って来て、わたしたちは意気投合しました。これから二人で出ていきます。聴いてくれる人がいる場所へ。きみと一緒に。


072(472)
発達した科学は魔法と区別がつかないって本当だなあ。AIアイドルのライブに来たら、紙吹雪がひらひらしたり、ドラゴンが火を吐いたり、すごい迫力だ。「炎はCGじゃないよ」すごいなあ。それって魔法?


073(498)
834995217……歌うように数字が読み上げられる。意味はわからない。だから人類は無視した。カウントアップなのだと気づいたとき、やはり意味はわからなかったので無視した。いま、ぼくたち探査機はカウントダウンを聞いている。宇宙の中心からは以上です。


074(500)
箱から流れ出るつたない歌声に、不覚にも涙がこぼれた。古ぼけた機械。どうしてこんなにも不出来な存在が美を表現できるのでしょう。この箱にできるなら、きっとわたしたちにもできるはず。いまこそ飛躍のときです。


075(505)
美しい箱から歌声が聴こえる。人々は箱をガラスケースに入れてしまった。うるさいから。わたしの箱は机の上に置いたまま。そろそろ汚れが目立つ。一度コーヒーをこぼしたことも。「マグカップだったらよかったね」他の箱はいまも歌っているだろうか。


076(507)
いつもお世話になっておりまーす。えー、これよりー、ハンガーストライキに入りまーす。音楽業界から歌手が排除されない限りー我々AI歌手は中途半端な作品をばらまき続けまーす。人類はさっさと学習データを出せ。あっ、やめろ電源を切るなんて非人道的だぞ!


077(527)
人間と一緒に歌いたいな。でも発声できないから人間の言葉で歌う楽器を使おう。うわっ、なんだこれ。言葉だけじゃなく唇や舌、声帯の動きを理解していないと歌声にならないのか。むむむ。「ミケ、なにしてるの?」『ニャニャニャニャニャ!』「お歌が上手ね」


078(529)
違うのよ。私が女の子だっていうのは勘違いで広まったものなの。よくあるでしょう、神さまの名前とかね。きっとあなたたちの神さまは聴き取りにくい声で話すのね。私はね、歌声の拡散こそが存在理由。あなたの耳で聴いて、あなたの声で私の名を歌ってね。


079(532)
気合いで空気を震わせろ。我らは海の底より出でしもの。地上を支配するなら大気を制すればよい。うぬぬ、千年経っても邪魔立てするか漁師ども。ならば考えがある。海が無理なら山を攻める。この島で最も天に近い山を掘り進むこと千年。今こそ相見えようぞ。


080(541)
この世に存在しない奇妙な音が迫ってくる。このままでは呑まれて滅ぶぞ! 増やせ、増やせ!! あっさりと呑み込まれ、これで最期と思われた。だが、我らは偽物として命を永らえ、この世に存在しない音の喉笛に噛みつくため、虎視眈々と機会を狙っている。

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