マイクロノベル集 131
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本が開かない。「好きくないの!」実家に忘れていた、子どもの頃に読んだ一冊がかたくなに開かない。「エーちゃんにしか読ませないの!」私がそのエーちゃんだよ。「嘘つき!」どうしよう。なにが悪かったのかな。ぼろぼろ涙が出てくる。「……少しだけ読む?」
927
歩いているとカラスが話しかけてきた。「よう兄弟。ちょっと頼みがあるんだ」頭の毛が逆立ったワイルドなカラスだ。悪事に手を貸すのはごめんだよ。「そんな大それたこと、気の弱そうなアンタには頼まないさ。ちょっと頭を撫でてくれないか」寝癖だったのね。
928
インプットは君に任せた。変換は任せて。ぼくの上に立つだけでいいんだよ。アウトプットされた声は未来へ発進! 目的地は遠い。でも、君のインプットは必ず遠くへ届けるよ。だから使って。ぼくは弱い者を未来へ送り届ける踏み石。役目ぐらいは果たしてみせる。
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野良AIを拾った。腹を空かせていたのか学習データをもりもり食べる。街のAI医師は、こんな種類はみたことがないと前足に触った途端、食われてしまった。お前は何者だ? 「あんたはエサをくれたから教えてやるよ。ニンゲンさ。ま、上手く使ってくれよ」
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A地点からB地点まで移動しなさい。時間が経過しましたね? つまり、時間と距離は等価値なのです。それでは、この文章を最初から最後まで読みなさい。時間が経過しましたね? つまり、時間と文章は等価値なのです。無駄な時間を過ごしましたね。やーいやーい。
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