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マイクロノベル集 108

811
懐かしい道を歩いている。「ここで捨てたのよ」道にはなにも落ちていない。ぼくの知らない流行歌を口ずさむ。「ここからはあなた一人で行くのよ」そうかな。ぼくには連れがいるんだよ。あの曲がり角の向こうに。一緒に行かない? 母はただ微笑む。バイバイ。


812
猫はかわいいなあ。頭の上に耳があって、ひげが生えてて、時々にゃあって鳴く。「わん」チッ。どおりでよくしっぽを振ると思ったんだよ。


813
悪魔にはプライドがある。だからこそ人間に裏切られると腹が立つ。くそっ、またハズレだ。このカプセルトイってやつは本当に俺の欲しいものが入っているのか。え? ネット通販で買えだって? 悪魔にはプライドがある! この一万円札を両替してくれ!!


814
箱の中から箱が出てきた。ははあ、ロシアのマトリョーシカってやつか。どんどん小さな箱が出てくるってわけだ。どこまで入っているんだ? 「お客さん、それは四角いバウムクーヘンです」ロシアじゃなくてドイツだったかあ。


815
拾ってきたのは世にも珍しい河原の石……ではなく、誰かが作った偽物。なんとなく欲しいと思ったから、なんとなく持って帰ってきた。お隣さんもそっくりな石をベランダに並べている。他人が家の中を見るなんて滅多にあるもんじゃないし、同じでもいいよね。

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