家に帰ったらゴリラがいました②
「ただいま」
「おかえり」
俺の家にゴリラが住み着いてから暫くが過ぎた。
ちなみにこのゴリラが父と発覚してからも一悶着が色々とあり、結局俺はあのなんちゃらかんちゃら制空圏とやらを破ることに成功した。だがそれとてつもなく遠大な方法であり、気にする奴はメキシコの砂漠で凍えてしぬからわざわざ語らない。
ともかく、今我が家では父さんの顔を持ったゴリラが居座り、日々バナナを消費している。
「いつ森へ帰るんだ」
「我が森は伐採の憂き目にあった。群れももうバラバラだ」
「じゃあ新しい森でも探せばいい」
そんな会話をしながら、俺はコンビニで買って来た夕食をぱくついている。足は対冬生活最強兵器こたつ様の中にあるが、ゴリラがかなりを占拠していた。デカいとは強い。そういうことだ。
「ところで、ゴリラ」
「父さんと呼べ」
「まだ認めてない。ところで……」
反論を撥ね付け、話を続けようとする俺。だが、そこへ転がり込んで来たのは――手榴弾(パイナップル)!
「!」
次の瞬間、爆ぜる。轟音、閃光。我が家は吹き飛び、哀れゴリラと共に森暮らし。木々を傘にし、日々餌に惑う。そんな妄想が過る。が。目を開ければ家は無事。代わりにゴリラが丸まっていた。
「効くぅ……。ゴリラ活法・猩々制空圏(結)及び球状防御体勢の合わせ技は流石にキツいぞ……。我が家は、無事か?」
「…………」
俺は頷くことしかできなかった。確かにゴリラは賢く強い。強い、が。
「あらぁ? 贈り物のパイナップル、一つじゃ足りませんでしたぁ?」
「お姉様、だからギャング召喚からの銃弾のお届け物の方が万全と言ったじゃないですかぁ」
「それじゃあ死んじゃうでしょぉ? 活かして連れ帰るの。そして……うふふ」
「むぅ……」
家のドアが蹴破られ、派手なドレスに身を包んだ女性と少女が現れる。女性は優雅に、嫋やかに。少女は頬を膨らませつつもそれに寄り添い。美しい姉妹愛を窺わせる。
「来たな……!」
俺は立ち上がる。俺はこの女達の目的を知っている。そのドレスと美貌の下に、どれほどの恐ろしいものを秘めているかも。
「あらぁ? せっかくの贈り物にもご不満かしらぁ。私の愛情が篭ってましたのにぃ」
「お姉様、やっぱりこの者はペットに相応しくありませんわ。切って捨てて野晒しにしましょう」
「……。人の家を破壊しようとしといてその言い草。やはり俺は貴女達とは分かり合えそうにないし、共感も服従もできそうにない」
俺はハンドガンを抜き、撃つ。刹那の技。殺し屋達には敵わぬまでも、磨き上げた己の技。それを二発。だが。
「お姉様。最後の警告です。この者はお姉様に仇成す者。不適格ですわ」
少女の手から、弾丸が落ちる。いかなる技かは知らず。されど。ドレスに乱れ、一つとてなし。髪にも乱れ、一つとてなし。
「そぉ? 貴女もきっと気に入ると思ったのだけどぉ……。仕方ないわね。今日はこれまでに……」
「待て」
よし、これで帰る。そう思った俺の背後から、声。ゴリラの、声。待ってくれ、頼む。事態をややこしくしないでくれ。
「我の森(すみか)に爆発物を投げ込み、謝罪もなく去ろうとは……。不届き千万。バナナ泥棒の如く、万死に値する」
が、ダメッ……! やはりゴリラはキレていた。俺は身の危険を感じ、背後のオーラに道を譲る。
「……猩々。貴方こんなものを飼っていたのですの? ちょっと和解させてほしいのですけども……」
「お姉様っ……。このゴリラ完全にキレてますわよ……。私怖くて……!」
「あ、貴女は下がりなさい……。猩々、貴方の森に仕掛けたのは私よ。私が全ての責任を取ります。それに免じて、こ、この子だけは……ね?」
二人は完全に腰が引けていた。だがそれでもドレスを汚すことはなく。それどころか女性は少女を庇い、震えながらもゴリラの前に立つ。その姿に、俺は。思わず。
「『父さん』、殴るのはやめてあげてくれないか?」
あらゆる意味で決定的な一言を。放ってしまった――。
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