家に帰ったらゴリラがいました③
「そうですか。お父様で……。同居とは知らなかったとはいえ、爆破しようとして申し訳ありません」
「お姉様を止め切れず、誠に申し訳ありませんでした」
「否。私も冷静を欠いていた。引き金が軽過ぎたのだ。済まない」
「いや、俺にとってはこの光景がですね…」
「お黙りなさい」
「お姉様の前でその反骨の口を開かないで!」
「息子よ。お前も謝罪するべきだ」
「だから認めてねえ!」
どうも、俺です。ただ今コタツでは地獄の光景が繰り広げられています。俺か。俺が悪いのか。何故三対一なんだ。アレか。先週拾い物の鮭に当たったからといって魚屋にゴリラをけしかけたからか。畜生、ゴリラじゃなくて銃弾で全滅させればよかった。でも今はそういう問題じゃない。
「あ、お父様それポンです」
「お姉様。私のツモを飛ばさないでください」
「必要牌だから仕方あるまい。とはいえお姉様、その捨て牌はロンだ。18000」
「んなあ!? やはり猩々とは分かり合えないのでしょうか……」
なぜ俺達はコタツで麻雀をしているのか。しかもゴリラが先程から一人勝ちをしている。ああ、森の賢者か。賢者だから麻雀も強いのか。こうなったら今度先輩に連れ出されそうになった時、このゴリラも連れて行ってやる。ゴリ連れ狼。しとしとぴっちゃん。餓狼の如く……。
「おい」
「ちょっとぉ?」
「反骨」
おや、何故か三者仲良くこっちを見ている。俺が一体何をしたってんだ。俺は何も……
「早く積みなさい」
「早く積むのよぉ」
「やはり仇成す者……。今ここで」
「……失礼しました」
ヤマを作るのを忘れていた。とてもつらい。
そんなこんなで突発麻雀は結局、徹マン寸前で少女が寝落ちして終わりを告げた。結局ゴリラは勝ちまくり、ウホウホ顔で万札を数えている。
一方俺は憂鬱だ。いくら居候が勝ったとしても。それは家賃ではなく、バナナに変換されるのだから。しかも買いに行かされるのは俺である。もう近所のスーパーでは顔を覚えられている。『バナナの人』とか呼ばれてるよ絶対。ああ、行きたくない。いっそ一駅向こうまで旅に出ようか。でも面倒だ。結局こうやって近所になる。よくない。全くよくない。つまりこうだ。
「オイ、ゴリラ」
俺は銃を出す。ここでこの不倶戴天のゴリラを叩き出し、俺は平穏を取り戻す。
「どうした、息子よ」
父の顔を持ったゴリラが、訝しげに俺を見る。
「今すぐ荷物を持って出て行け。その金があればどこかで宿もあるだろう。俺にはお前は養えない。毎日毎日バナナを大量に消費するゴリラは、到底な」
「……」
ゴリラは悲しそうな顔をしていた。目尻が下がり、口元が歪んでいた。俺は、父のキャッチボールを断った時のことを思い出した。顔の色は変わったけど、相貌は今なお変わらず。そういえば、その事件は。父が飛行機事故で消息を絶つ、数日前の……。
「……ゴリラ活法」
「使うなら使えよ。俺は引かねえ」
俺は、毅然として言う。ここで退けば、それは絶対防衛圏の崩壊を意味する。殴られようとも、蹴られようとも。
だが。
「ゴリラ活法・絶招。捨身群生(身を捨ててでも群れを生かさん)」
「え?」
ゴリラが、光る。まさか……と、思った時には既に光に視界を奪われていた。眩しさに目を閉じ、暫くの間、時が止まる。そして。
「これで良いか?」
変わらぬバリトンボイス。だが、目の前にその巨体は、ない。思わず見回す。そういえば、技の名が。不吉だった気がする。
「どこだ! どこに居る?」
「ここだよ」
「ん。ん? えええええええええ!?」
ようやくみつけたゴリラは。手乗りサイズにまで縮小されていた。
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