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流産といわれたけど流産じゃなかった話

「胎嚢の中が空です。流産でしょう」


エコーに映し出された子宮内の真っ黒な空間。「今回もダメだったか」と少し落胆しつつ、夫婦の年齢的に簡単じゃないよなとすぐ現実を受け入れた。
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計算上では妊娠6週。産婦人科クリニックを受診し、「子宮内に妊娠していますね」とエコーで胎嚢の中に卵黄嚢という丸い輪が見えてホッとしたのを覚えている。なぜなら、私はこの1年で妊娠は3回目。1回目は子宮外妊娠、2回目は稽留流産で手術をしているのだ。

とりあえず、子宮内に胎嚢があるなら第一段階はクリア、次は心拍確認まで神頼みの日々が続く。いわゆる医学用語ではないけれど流産の確率が最も高い時期の「妊娠9週の壁」、心拍確認ができても「10週の壁」「12週の壁」とまだまだ不安は尽きない。

持病がある私は産婦人科クリニックで妊娠を確認した上で紹介状をもらい、市内の母子周産期医療センターのある総合病院を受診。最後の生理開始日から計算して妊娠7週だから、「排卵日がズレていなければ心拍確認ができるかもしれない」と少し期待していた。


今度こそ妊娠継続できるといいなと思った。

初めて訪れる総合病院の待合室は思ったよりも混雑しておらず、これなら待ち時間もかからずに予約時間通りの受診できるかもとそわそわ。予約時間を少し過ぎた頃に受付番号を呼ばれて診察室に入ると、ドクターが紹介状を読んでいるところだった。

「まずは内診しましょう」と内診室に移動。カーテンの向こうから「準備できましたか?」と看護師さんから声がかかり、「はい、よろしくお願いします」と返事をするとゆっくり台が上がっていく。何度やってもこの検診台(内診台)に座るのも器具を身体の中に入れるのも慣れないなあと深く息を吐いて呼吸を整えた。


「胎嚢の中が空です。流産でしょう」


エコーに映し出されたのは子宮内の真っ黒な空間。心拍確認どころか、先週は見えていた丸いリングはどこかに消えてしまっていた。

ゆっくりと検診台が元の位置に戻り、下着を履いて診察室で主治医から今後の流れについて説明があった。私はすでに稽留流産を経験済みだったので「手術をするとしたらいつ頃の予約になりますか?」と確認したところ、「手術といっても大それたものではなく……」と主治医が説明をしようとしたので「数ヶ月前に稽留流産で子宮内除去術を受けているので説明は必要ありません」と伝えた。


自分でも驚くほど流産に対する感情の起伏はなく、年齢的にも早く次の妊娠に向けて進みたいと思っていたからだ。


その場では2週間後に再診予約となり、会計処理が終わるまで時間があったので仕事中の夫に「またダメでした。自然排出がなければ来月手術かな」とLINEをする。前回の稽留流産の際と同様、いつ出血するのかわからない状態で日常生活を送る日々が憂鬱で仕方がなかった。

結局、2週間の間に出血はなく再診予約の日にいつも通り車を自分で運転。前回と同じ診察室に入り、「出血はありましたか?」と簡単な質問をされて「何もありませんでした」と答えて内診室へ移動した。いつもの流れで、あの台に座る。手術日はいつになるのかなー?早めがいいけど、夫の有給は取れるだろうかと先のことを考えつつ、エコーのモニターを見た。

何も変化がないであろう自分の子宮内を確認するために……。


「赤ちゃん、元気ですよー」


医師のまさかの言葉に、私は一瞬何を言われたのか理解するまでに時間がかかった。

「え、前回は流産だろうって言われて胎嚢も真っ黒で空っぽでした」声がちょっと裏返る。

「排卵日がズレてまだ小さくて見えなかったのかもね」

いやいやいや、前回の診察では数日前に見えていた卵黄嚢が見えなかったのに???と訳がわからない。

「……心拍あります?」

「ほら、聞こえますか?」とジャクジャクという音が聞こえてくる。ちょっと音が小さくて聞こえづらいなと思いつつ、エコーに映る波形をじっと見つめた。すでに流産を受け入れていたのでまさか妊娠継続できているなんだか不思議な気持ちだった。

そこからは今後の妊婦健診の予約や各種同意書へ目を通してサインし次回持参するようにと説明を受けたのだが、さっきまで流産のつもりでいたのに次は出産に向けて考えるなんて思考が追いつかない。

とりあえず、ふわふわと現実味がないこの状況を現実のものにするため病院でもらった妊娠届出書を握りしめて市役所に向かった。母子手帳をもらうために。


流産といわれたけど、流産じゃなかった。


現在、私は妊娠22週を過ぎたところ。もし、早産になったとしても新生児の治療ラインにのったのでまずは一安心……というわけもなく!!

自分の体調の波と子育てで格闘する日々。第一子は2歳前のイヤイヤ期が本格化しているのだ。第二子を妊娠するまでは街中で妊娠中のお腹の大きい女性が上の子を抱っこしていると「え、大丈夫なの?」と思っていたのが申し訳ない。幼子がいる家庭では妊娠中に切迫流産等にでもならない限り上の子を抱っこしない選択肢はないし、どんどんお腹が大きく重たくなるのに比例して上の子の身体能力は発達していき、気を抜けばピューっ!と道路に飛び出してしまう、危ない。

無事に妊娠継続できれば来年には二児の母になる予定だ。

夫には数ヶ月育休をとってもらうことにしたので、今回は里帰りなし。産休は取りつつ、仕事復帰も早くしたいなと思うが、家族が増えた先の私の生活は未知数。とりあえず、母子無事で出産できるといいなと思う。

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Shiho OZAWA(ライター)
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