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炭素でつくる太陽電池

真夏日が続く夏休み、2024年7月26日に、名古屋大学東山キャンパス内に新しくオープンしたTokai Open Innovation Complex(TOIC)1Fで「炭素でつくる太陽電池」を開催しました。

サンサンと照りつける太陽を避け、直射日光の当たらない場所でじっと耐えるしかないと思いきや、太陽光線をエネルギーに変換してくれる新たな太陽電池があるそうです。この電池は、カーボンナノチューブを活用することで薄く透明で曲げられるシート状になっているのだとか。いったいどのような仕組みなのでしょうか。


1. 自然エネルギー・再生可能エネルギーといえば

「自然エネルギーについて思い浮かべるものはなんでしょう?」という問いをきっかけにスタートしました。会場の皆さんには、スクリーンに表示されたQRコードから、その場で思いついたことを投稿してもらいます。

名古屋大学東山キャンパス Tokai Open Innovation Complex(TOIC)にて
ゲストの松尾 豊さん(名古屋大学大学院工学研究科 教授)
MCのしょーたくんこと、髙橋 将太さん(名古屋大学素粒子宇宙起源研究所 特任助教)

髙橋:自然エネルギーといえば太陽光発電を思い浮かべますよね。現状はどうなんでしょう?
松尾:日本のエネルギーミックスは、再生可能エネルギーが25%で、そのうちの10%が太陽光エネルギーです。
髙橋:思ったより多い気がしますね。
松尾:そうですね。日本は最近まで世界第三位でしたが、インドに抜かれました。2030年目標の18%は厳しいかなと思います。
髙橋:国土の広さも関係ありそうですね。
松尾:中国・アメリカ・インドは、広い砂漠に太陽光パネルを設置しています。

再生可能エネルギー:地球資源によって、定常的に補充されるエネルギー
自然エネルギー:太陽、地熱、風、潮汐流といった自然現象で得られるエネルギー

インドの太陽光発電(松尾さん提供)

髙橋:すごいですね。海じゃないですか!
松尾:日本は狭い所にもパネルを敷き詰めているので、平地面積当たりの発電率は世界一です。とはいえ、少しでも太陽光発電の割合を増やせれば、と考えています。

2. 太陽電池の現状と課題

髙橋:環境に影響があるという意見がありますが、デメリットについてはいかがでしょうか?
松尾:太陽電池は半導体にシリコン、日本語でいうケイ素を使っています。これを作る時に、かなりのエネルギーが必要になります。
まず、ガラス質の砂とか水晶などの酸化ケイ素、これから酸素を取り除くために石炭を使います。ケイ素についていた酸素を二酸化炭素にして排出し、粗っぽい純度のケイ素を作ります。次に、塩素原子で包んで液体の塩化ケイ素にします。この状態なら蒸留できるので、精製していきます。さらにまた熱をかけて塩素を抜いて、純度の高いシリコンができるのです。

髙橋:半導体のシリコンを作るのに大変な手間と火力のエネルギーがかかっている、それが従来の太陽電池の課題なんですね。
松尾:はい。ただ、最初に投入するエネルギー分は十分回収できるので、その他の課題のほうが大きいかもしれません。

髙橋:シリコンを使っている太陽光パネルは、かなり重いイメージがあります。屋根に乗っているようなものとか。
松尾:重さがあるので、パネルを設置する架台はそれなりに建築工事をしたしっかりしたものが要りますし、垂直にはできないです。災害や台風で大変なことになるリスクもあるので、もっと軽く、都市の中に設置できるものを研究したいと思いました。

台風で破損した太陽光パネル(松尾さん提供)

3. 電池素材としての炭素

髙橋:ここにある太陽光発電シートは、めちゃくちゃ薄くて軽いですよね。どういうモノでできているんでしょう?
松尾:これは炭素とPETボトルのPETで作っています。

風景が透けて見えるCNT-OPVセミモジュール​(松尾さん提供)

髙橋:炭素を使った太陽電池とはどういう仕組みなのでしょうか?
松尾:今、皆さんが手にしているシートは、CNT-OPVセミモジュールというものです。CNTというのは、カーボンナノチューブのことです。

髙橋:このチューブの小さなプチプチが炭素の原子ですね。ナノサイズのとても細いチューブということですね。
松尾:髪の毛の2万分の一くらいの細さです。
髙橋:シートが透けているのはどういう仕組みなのでしょうか?
松尾:カーボンナノチューブが、目に見えないくらい細いからです。電子顕微鏡でなら見れます。
髙橋:これを電気を流す銅線のように使っているんですか?
松尾:はい。カーボンナノチューブは電極になります。シリコンの太陽電池だと、日本では産出されないような金属を電極に使いますが、炭素ならどこにでもあります。シートの緑の部分は発電材料で、有機半導体で出来ています。電極も半導体も、どちらも軽くて曲げやすい材料でできているのが、この太陽電池なんです。

4. 誰もやっていない炭素×太陽電池

松尾:有機薄膜を使った太陽電池は、OPVといいますが、企業でも実用化の研究が進んでいます。名古屋大学の特徴は何といっても、カーボンナノチューブを電極として使っていることです。電極部分だけのモノも持って来ましたので、手に取って見てみてください。

奥の白丸シートがカーボンナノチューブをシート状にした電極。手に取っているのが太陽光電池のシート。

髙橋:なんだか紙みたいですね。薄くて軽いという点では、ペロブスカイト太陽電池と競合するのでしょうか?
松尾:ペロブスカイト太陽電池にもカーボンナノチューブの電極を使えるかなと思っています。炭素は腐食しないので、一年前に作ったシートでも変化は見られません。

髙橋:1年たっても変わらないのは、耐久性としてすごいことなのでしょうか?
松尾:従来のペロブスカイト太陽電池では、ヨウ素により電極の金属が腐食するので金しか使えないんです。銀を使った場合には、酸化された銀により発電層材料も酸化されます。

耐久性が高いCNT-OPV(中央と右)(松尾さん提供)

松尾:カーボンナノチューブの場合、炭素が電子を補ってくれるので酸化を防ぐことができます。炭素の電子は発電しているうちに補充されます。フラーレンでも同様の効果があることがわかっていて、炭素のお陰で材料が安定し、耐久性が高くなるのです。

参加者:カーボンナノチューブを製造する装置が研究室にあるのでしょうか。
松尾:はい。日本初で、重要な基礎技術になるということでデンソーさんに支援していただいています。研究者としての醍醐味は、自分だけのオリジナルのことができるかどうか。名古屋に来たのをきっかけに、産業界の方とタッグを組んで大きく進められるようになりました。

カーボンナノチューブ薄膜透明電極​をつくる研究室の様子(松尾さん提供)

5. 透明で曲がる太陽電池、どう使う?

参加のみなさんに使い道について聞いてみると、面白いアイディアがあふれるように出てきました↓

参加者:カーボンナノチューブの電極シートを1枚作るのにどのくらいかかるのでしょうか?
松尾:3時間かかります。ですので、一日3枚しかつくれません。

髙橋:透明というだけでなく、ステンドグラスのように色も変えられるとか。
松尾:そうですね。これは緑の光を反射するので緑色に見えます。赤い波長を反射させれば赤に見えます。屋根にはシリコンのパネル、窓にはカーボンナノチューブ電極を用いたシート状の太陽電池というように使い分けてもいいですね。

参加者:カーボンナノチューブの電極は金より安いですか?
松尾:用途を決めて大量に生産できればコストが抑えられます。

具体的な用途が見えるカーボンナノチューブを用いた太陽電池は、世界のエネルギー問題に光を射してくれるのではないでしょうか。年内には、名古屋大学のシアトルカフェにも実装されるそうです。ご興味がある方は、ぜひ足を運んでみてください。

取材:森真由美(株式会社MD.illus―-アウトリーチ活動を支援しています)

開催概要(第106回名大カフェ)
タイトル:炭素でつくる太陽電池
ゲスト:松尾 豊(名古屋大学大学院工学研究科 教授)
MC:髙橋 将太(名古屋大学素粒子宇宙起源研究所 特任助教)
日時:2024年7月26日(金)18:00~19:30
会場:TOIC名古屋サイト(名古屋大学 東山キャンパス内)
対象:どなたでも
参加:30名

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