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『1917』 心底怖かったのは、あの場面でした

『1917 命をかけた伝令』 
サム・メンデス監督の話題の戦争映画だ。
1600人の兵士を救うべく大切な命令を伝えるため敵陣を若い兵士が駆ける。
撮影は、カットの繋ぎ合わせるのではなく、可能な限り長回しによるワンカット風の撮影。
ただ、長回し撮影で緊張感を出すというのは、それほど珍しいことではない。

けれど、
そうは言っても、

この『1917』はかなりの迫力と緊張感で戦場に観るものを放り込む力がある。
塹壕の場面ではカメラが自分の目線となり主演の2人に置いて行かれたないよう必死でついて行くことになる。
敵地ではどこから銃撃があるかと首をすくめるようなハラハラが最高潮。
よく言われる没入感とか臨場感というやつだ。でもそれが本当に半端ないから。
観てるだけで息切れしてくるような感覚。

そして、主演の2人がとてもいい。
(いい意味で)特別感がないし、なんなら知り合いにもいそうなくらい普通だ。そこがこの緊張感への水先案内人としてはうってつけなんだと思う。
そして脇を固める俳優たちが物語に厚みと重みを増してくれている。
マーク・ストロング、アンドリュー・スコット、コリン・ファース、ベネディクト・カンバーバッチ、いやーすごいメンバー。
若い2人と、ここぞという場面で登場する彼らの絡みがたまらなくいい。

若い2人の兵士は、様々な困難をくぐり抜け目的の地へもがきながら進む、駆ける。
その姿を観ている僕らも息せき切って追いかける。
もちろん戦争映画なので極限の緊張感の中で悲惨で怖い場面がたくさんある。殺されたり、死体だってたくさんでてくる。

でも、
一番怖い場面はそんな場面ではない。

2回目に観た時に気づいた。
穏やかなあの最後の場面、どっかで見たな・・

オープニングシーンだ。
木にもたれ静かに目を閉じた横顔。

ここで、心底怖くなった。
今にも上官が来て、新しい任務を告げるんじゃないかと。
また将軍に呼びだされるのではないかと。
伝令を届けたマッケンジー大佐の「また今度は戦闘の開始を告げる伝令がある」という言葉のとおりだ。

戦場の日常。
長い戦争のたった1日の出来事。
2人の伝令は特別なことではなかった。
まさに無限ループ。地獄の堂々巡り。
戦争とはこういうことなのか。
死体の山を見せられるより怖いシーンだった。

戦場の中の毎日。
その環境、その日常は人を変えてしまう。
一瞬の安らぎさえ許さない。
戦争という得体の知れない怪物が怖くて仕方ない。そう強く感じたラストシーン。
そこも含めて、戦争の痛々しい悲惨さを追体験するような映画だった。

本当に戦争怖い。

〈追記〉
初回に観たあと、
キューブリックの『突撃』へのオマージュとか、キューブリック愛とか、そんな情報を目にした。
で、『突撃』観てみた。 
どちらも第一次世界大戦の対ドイツの塹壕戦とくれば似てくるところは当然あるんだろうけど、両作の終盤のあの緊張から緩和へと切り替る歌のシーン。ぴんと張り詰めた精神が拠りどころを一瞬取り戻すあのシーンは明らかに影響されてると思う。好きなんだろうな。きっと。
合わせて一度観てほしい。

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