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髪を切った

「髪を伸ばしまくったらどうなるんだろう」となんとなく思って冬の始めあたりから髪を伸ばし続けていたが、飽きたので切った。

近所の理容院で切ってもらった。
探したら他にも理容院ぐらいありそうなものだが、道を歩いてて初めて見たサインポールがその店のものだったので、以来そこに通っている。

店をやっているのはそれなりの歳の男性2人。
お笑い芸人でいうと第三世代ぐらいの年代な気がしているが、目測なので信憑性はない。
髪を切っている最中もずっと話しかけてくるので、顎付近の髭を剃っている時以外はずっと雑談をしている。
ビフォア・コンプライアンスの世代の方々なのでたまに話の雲行きが怪しくなるが、そういう時は食べ物かお酒の話に持っていけば軌道修正できる。
この辺はテクニック。

毎度びっくりするのだが、「いつもの髪型で」が通用する。
3回目あたりからこれで通じるようになった。
自分の髪型なんてそんなに気にしていないので、本当に毎回同じ髪型になっているのかどうかは分からないが。

理容師が常連の客の髪形を記憶しているのだとしたら、これはすごい専門性だと思う。
素人の僕にとっては自分の現在の髪型すら記憶し、満足に表現することはできない。
髪全体の形をグラフにして表現する……みたいなことならできるかもしれないが、言葉と手の感覚でそれを再現するのは不可能だ。
アプローチの仕方すら分からない。

髪の悩みなんかをぼそっと口にすると、「じゃあ今日はこうした方がいいんじゃないか」という提案がすぐに返ってくる。
そして、その提案は正しい。
自分の身体の一部のことなのに、自分では全く理解できていなくて、でも季節に一度しか会わない他人は見た瞬間にそれを理解してしまう。
何十年も専門家として理容師をやっているんだから当然だとも思うが、同時に、「自分のことを一番よく分かっているのは自分だ」という無意識の前提が突き崩されるような感覚もある。

そんな理容師も、ハサミを置いて店から出たら「普通のおじさん」だ。
何気なく道ですれ違う普通の人にも何らかの特技があって、自慢できることがあって、専門性が宿っていて、特定の場所に来ると素人には想像もつかないような鋭い目線でものごとを分析しているのかもしれない。

自分もそのうちそんな得意技を持てるだろうと楽観視しながら。
でも本当にそんなことができるのだろうかと不安に思いながら。

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