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【感想】モネ&フレンズ・アライブ
三宮のデザイン・クリエイティブセンター神戸で開催されている展覧会「モネ&フレンズ・アライブ」に行ってきました。
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「モネ&フレンズ・アライブ」は海外の企画会社・Grande Experiencesが開催し、世界中を巡業している没入型展覧会です。
以前にも「ゴッホ・アライブ」というイベントがありましたが、今回はモネを中心とした印象派画家たちのバージョンという感じです。
展覧会ということで、モネを中心にピサロやドガといった印象派の画家たちが描いた絵画を鑑賞することができますが、この「アライブ」は額縁に飾られた絵をキャプションとともに眺めるような通常の展覧会とは大きく異なります。
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展覧会の会場に絵画そのものは存在せず、いくつも並べられた大きなスクリーンに様々な絵画や映像が順番に投影されています。
遠近感が3Dで表現されているものや水面が揺らめいているものなど、映像ならではの演出がなされているものもあり、巨大なサイズで観ていることも相まって、過去に観たことのある作品であっても新鮮に楽しむことができました。
会場のBGMとして様々なクラシック音楽が使われており、音に合わせて絵画が次々に切り替わるような楽しい場面も。
印象派は、歴史や宗教画を高く評価していた新古典派に対する反発から生まれた運動であり、都市の日常や自然を描いた風景画が多く知られています。
「アライブ」ではこういった風景画を大きなスクリーンで鑑賞できるため、実際の風景をその内側から見ているかのような感覚になります(おそらく想定された演出であり、例えばパリの街並みの絵が表示されているときは足元には石畳が投影されています)。
また、印象派固有の特徴として、独特な筆致による光や空気が挙げられることが多いですが、これもこの上演形式に良く合っているように思いました。
普段の美術館は絵画の表面が白色光を吸収し、残りの光を見ているわけですが、今回は投影であるため、その色の光をスクリーンに直接照射しています。
これにより空間全体がその色に包まれ、特に淡い色で描かれた絵が広げる空間は幻想的なものでした。
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モネは、ひとつの対象を様々な季節・時刻に描いた「連作」と呼ばれる形式の作品群をいくつか残しています。
代表的なのが「積みわら」と呼ばれる20点以上の連作ですが、今回の「アライブ」にも数多く採用されており、リラックスしながら順番に鑑賞することができます。
以前、美術館でモネの連作の企画展を観た時は学術的興味が強かったのですが、今回は感情の部分で、ぼんやりとしたものを受け入れることができたように思います。
◆ ◆ ◆
展覧会全体を通して、様々な絵画をストーリー立てて鑑賞することができましたが、これはある種のドキュメンタリーとして捉えることができるものだと思います。
もしこれが新古典派の絵画であれば、今回のストーリーは聖書か歴史書になっていたでしょう。
そちらも興味深いものではありますが、この背景は画家たち自身からは切り離された部分にあり、彼らをキャラクターとして捉えることは難しいものになっていたと思います。
しかし、印象派の表現は先述の通り日常的な風景を描いたもので、その筆致や色使いには彼ら自身が自然や民衆をどのように感じたのかということが強く反映されています。
これは「アライブ」の没入型展示と非常に相性が良かったように思います。様々な表現により演出された空間は当時の彼らの目に映った景色の模擬であり、歴史の教科書には掲載されることのない、当時を生きた人とそこに存在した感情そのものが反映されています。
美術史の用語としての「印象派」はよく知っているつもりでしたが、この「アライブ」を通して印象派が印象派として存在した意味のようなものを垣間見ることができたように思います。
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