見出し画像

不器用だけど、周りに助けてもらう術を知っている

ある日、仕事から帰ると、リビングの真ん中に三男のランドセルが投げ出されていた。開けて中身を確認すると、ぐちゃぐちゃのプリントと、数本の鉛筆がランドセルの奥底から出てきた。

それを全部出して、今日の宿題は何だろうと連絡帳を開くと、何故か違和感を感じる。

なんだろうと思いながら開いた連絡帳をじっと見て、気づいた。

なんと、今日は字がとても上手だ。

いつも線からはみ出るのに、きちんと収まっている。濁点などの抜けもない。

すごい!と思う前に、おかしいと感じた。


「ねぇ、今日の連絡帳、自分で書いた?」

そう聞くと、三男は目を泳がせ、さらに黒目を一周グルンとさせてから、

「うん」と言った。

嘘やん。

「違うでしょ」

またグルン。

騙されまいと眉間にシワを寄せてじっと目を見ると、逃れられないと思った三男は、

「うん、、時間がなかったから、お友達に書いてもらった」

バレた途端、すぐに白状する。この切り替えの早さが末っ子の強みなのか。

「いやいや、ダメでしょ。これは自分でちゃんと書かなくちゃ意味ないんだよ!」

そう言って怒る。

先生が見ましたサインを書いていたので、きっとバレないと思っていたのだろう。バツの悪そうな顔で「はぁい」と言って、そそくさと逃げていった。

まったくもう!お兄ちゃん達はそんなことしなかったのに、と私は独りごちる。


翌日、また仕事から帰ってくると、ダイニングテーブルの上に折り紙とメモが置いてあった。

『おかあさんに ぜんぶあげる。』

そう書いたメモの横には、折り紙で作ったどんぐりがたくさん置いてあった。

私が帰宅したことに気づいた三男が、二階からドタドタとやってきて、ニコニコしながら言った。

「お母さん、どんぐりあげるね!」

きっと昨日怒られたので、ご機嫌を取るために作ったに違いない。その行為がとても可愛く思えて、私もニコニコしながら答える。

「ありがとう!上手にできたねー」

「うん!お友達が作ってくれたから!」

ん?

何かおかしくない?

お友達が作ってくれたって?

「あっ、でもひとつだけ僕が作ったのがあるからね。じゃあ!」

そう言って、また二階へ戻って行った。

えー、自分で作ってないんかい!と心の中で突っ込みながら、折り紙のどんぐりを並べてみる。

すると綺麗に折られたどんぐりの中にひとつ、折り目がたくさん入ったどんぐりがあった。

絶対これやん。間違いない。

その不器用に折られたどんぐりを手に取って眺めていると、なんだか可笑しくて笑えてきた。

画像1

三男はお箸を持つのは右手だけど、字は左手で書く。幼いうちからちゃんと統一しなかったせいかどうかは分からないが、左右どちらも不器用なまま成長している。

字も早く書けないし、工作も苦手。

連絡帳に書いた字が自分で読めない事もよくあるし、工作で作ったビニールの凧は飛ぶことはなく、引きずり回して遊んでいた。

でも、本人は気にしない。

えへへ〜と笑っている。

そんな不器用な三男をほっとけないのか、周りがよく助けてくれる。凧も貸してくれるし、連絡帳も書いてくれる。

最初はそれが強制的なものかと思って心配していたけど、先生やお友達に聞く限りではそうではないようで、どうもお世話をしたくなる存在らしい。

それを三男は「ありがとう!」と笑顔で返す。そして、自分にできることがあれば率先して手伝ってあげる。

本人は意識していないだろうけど、そうやって上手にバランスを取っているようだ。

そんな三男を見ていると、この子は手先は不器用だけど、要領よく生きていく術を身につけているなと感心する。それは将来、きっと彼の強みになるだろう。

でも、今は連絡帳は自分で書かなくちゃいけないし、苦手なことも頑張らなくちゃいけない。あまり要領ばっかりよくにならないように、これからも自分でやる大切さを教えていかなくてはと思う。


「お母さん、友達にナスもらったよ!!」

三男がランドセルにナスをぶっ刺して帰ってきた。友達の家で収穫されたものを、帰り道にもらったらしい。

20㎝以上はあるナスは収まりきれず、半分以上ランドセルからはみ出ている。そんな姿を見て『この子がいると毎日飽きないな』と思いながら私は笑った。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?