きゃないへるぷゆー? -オランダ帰国編-
真っ白なカウンター越し、液晶ディスプレイの影に、
30代半ばだろうか、青灰色の瞳を持つゲルマン系とおぼしき女性、眉間に若干のしわを寄せこちらを直視した。ニコリともしない。猛禽類のようだ。
その眼力にタジタジ、狙われた小動物のように固まっていた私に、追い打ちをかけてくる。
指をコツコツと叩きながら
「Can I help You ?」
**
トランジット失敗
ここは、フランクフルト空港、ルフトハンザ航空のサービスカウンターである。
「なんとかなるっしょ」
甘く考えていた 私の前に登場したのが、先ほどの女性である。
遡ること1時間前
オランダのスキポール空港、1時間遅れで動き出した機体、滑走路で速度を上げるにつれて窓を覆う雪が剥がれてゆく。その時は、乗換えを甘く考えていた。JRであれば、新幹線が遅れた場合、在来線の特急は、出発を遅らし待っていてくれる。円滑な乗り継ぎが約束されている。
オランダ ⇒(ドイツ経由)⇒ 日本 と、すべて同じ航空会社(ルフトハンザ)で乗り継ぐんだから、ドイツで待っていてくれるんじゃない?
甘~い
フランクフルト空港へ着陸態勢に入る前に、アナウンスが流れ始めた「LHxx9 ⇒ LHxx1、LHxy2⇒LHxy8・・・」
乗換えの案内だ。自動で乗継便が変更されていく。素晴らしい。
よし、よし
ところが、私の乗る便が、案内されない。
「カウンターに行ってください!」
ということで、 - 冒頭のシーン -
「 Can I Help You ? 」
おいらは、カウンターに行けと言われ、ここに来たのだ。「きゃないへるぷゆー」と言われてもなあ・・ こっちこそどうすりゃいいの?
強い気持ちで臨んだまなざしを、彼女の冷凍ビームが打ち砕く、
言葉を発することが出来ない私を一瞥した後、ディスプレイに向かいキーボードを叩き始めた。
「・・・・」
沈黙が長い。1分くらいであろうが、カップヌードルがふやけるくらい長く感じた。
ようやく、こちらを見てくれた。
タカ目の女性は、事務的に淡々と説明を始める。
どうやらANAなら日本に帰れるらしい
よっしゃー! 軽く手を握る
ただし!
離陸は、 「8時間後!」
行先は、 「羽田」
羽田で乗換え(セントレアへ)
乗換猶予は、「30分!」
「へ?」
以上
おじぎをすると、心なしか、彼女の目元が緩んだような気がした。
**
着陸態勢 一難去って・・・
小窓から外を見やる、あ~なんとか日本に戻ってきた。
眼下に懐かしい景色が見えてきた。
フランクフルトでは1時間あった乗換えに失敗、今回はその半分の30分。。
日本国内なら「なんとかなるっしょ」
そのとき、CAさんが『笑顔』でシートに近づいてきた。
なぐなぐさんですね?
「国際線と国内線は、かなり離れています。」
「わたしたちも、できる限りのことは致します。」
「この黄色の蛍光テープをよく見えるように」
「腕に巻いてください」
わかりました。
のんびりムードが一転、手に汗が
飛行機を降りると、
「ついてきて下さい」
地上では、小柄な女性が『笑顔』で待っていてくれた。
アテンドされるがままついて行く
荷物受取・入国審査・税関・・・・
ドンドン優先して進んでいく、VIPや~
黄蛍光テープ すげー
屋外にでる、またまた、別のスタッフにバトンタッチ
その女性スタッフが手をあげる
「運転手さん、国内線 7番ゲートまで!!」
「運転手さん、急いでください」
千円札を数枚握り締め助手席に乗り込んだ女性スタッフ
長い髪を揺らし振り返る
できる限りのことは致します
笑顔はない、真剣な目だ
なんだか、刑事ドラマを見ているようだ。。
バクバクの自分と、客観的に茶化している自分がいる。
間に合ってくれ!! 明日は会社なのだ、変にまじめな自分
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プシュ
チン
グラスを傾ける目の前には、見慣れた女性
妻と『笑顔』で、乾杯
この24時間におきた出来事をつまみに・・ 深夜の晩餐
ぷはっ
あ~、5時間後には、会社・・・
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最近外出できないので、ー 昔の旅日記より ー
またこんな乾杯ができますように、、
(おしまい)