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神の住まう島へ -島時間島料理編-


ガラガラガラ・・


そっと扉をあける

真夏の炎天下、薄暗い店内に入ったせいで、周りが良く見えない。蛍光灯のあかりに目が慣れるまで、立ちすくんでいると

カーン!

ドドォッー

ドキッとしながら、音のする方を見あげる。カウンター越しのテレビから、NHKのど自慢の、鐘の音が響く。

島へ

おもての暑さから遮断された世界。
夜は、場末のスナック、いや、島末のスナックであろう、店内を見渡して、ボックス席に陣取る。夜は、蝶になるのであろうか、老齢の女性が、カウンターの向こうで、昼食の準備をしているようだ。

ここは、三重県は、神島

テレビの中の騒がしさとは、かけ離れたような店内の静寂。気づくと、我々の他に、先客がいた。奥のあがり席に、アラ還とおぼしき先輩夫婦。

そのテーブルの上には、わずかに飲み残したビールジョッキと、つぶ貝。この年齢の夫婦に言葉は要らない。旦那さんは、無言でスケッチブックを取り出し、色えんぴつで静物画を描き始めた。

『ビールジョッキとつぶ貝』
食後に、絵を描くような、余裕旅っていいなぁ。

いかんいかん

眺めている場合じゃない、昼ごはんをオーダーしなきゃ

「おまかせ昼定食」を3つ

2019年のとある夏。本日は、妻と、大学を卒業して実家に戻ってきた息子と3人。久しぶりのお泊り家族たびなのだ。

ガラガラ ぴしゃん!

「おばちゃーん! 冷蔵庫貸して!」

片手に発泡スチロールを抱えた、女性が、ずかずかと店に入ってきた。息子と同世代、20歳前半くらいであろうか。発泡スチロールを冷蔵庫に手早くしまうと、勝手にカウンターに入り、棚下からビールジョッキを取り出す。

手慣れた手つきで、ビールサーバにジョッキをセット。

「ぷはー」 

つむじかぜ

シーンとした、店内につむじ風が起きた。

「本当はね、明日島を出ようと思ったんだけどね
 波が高くなりそうだから、今日中に退散するわ
 船の時間まで冷蔵庫貸しといて」

ひとりごとのような、伝言のような言葉を残し、つむじ風が去った。

つむじ風の代わりに、カウンター奥から、料理のお盆を両手に持った女性が現れた。

おっ、おまかせ定食が来た!

と、思ったら、我々の前を素通り。 え!?
奥のあがり席に向かう。

あれ? 食後だと思っていた夫婦、食事がまだだった・・・
優雅に静物画じゃなくて、暇を持て余していたの?

そういうことですか・・

覚悟を決めて、姿勢を正し、のど自慢を見る。

おあずけ

本当は、ここ神島に泊まりたかったのだが、突然決めた旅。お盆休み中に、宿が空いているほど、甘くはなかった。陸地側の鳥羽市に宿をとり、本日は神島日帰り一周の旅なのだ。

一日に数便しかないフェリー
次に神島を出発する船の時間は、今から4時間30分後だ。

神島は、一周約4km。のんびり歩いても、2時間もあれば一周できる。
コノヤロ残暑ビームと、濃密潮風の中、4時間半ぶらぶら島で過ごすかぁと覚悟を決めながら、まずは腹ごしらえ・・
という事で、港近くのお食事処に立ち寄ったのだ。

30分経過

先輩夫婦が、食事を終え、店を出て行った。


もう少し、マテ!

さらに、30分経過

のど自慢大会は、とっくに終わっている。調理をしている気配は、隣りの調理場からひっそりと漂ってくる。本を持ってこればよかった。今回は、電車旅+フェリー旅、電車の中では文庫本を読みながら来たのだ。

もちろん、三島由紀夫「潮騒」だ。愛知県伊良湖半島と、三重県鳥羽の間にぽつりと浮かぶ島。ここが、潮騒の舞台「歌島」こと、「神島」だ。

ようやく、茶わんをカチャカチャ並べる音がし始めた。料理が出来たようだ。順に運ばれてくる。

酢の物、刺身、焼き魚、煮魚、そして、鰯と梅干しのはさみ揚げ。もちろん、ご飯、お味噌汁。フルラインナップである。

島時間

日本全国、島には、独自の時間が流れている。
早速その洗礼を受けた。

いや、これを楽しんでこそ島タビだ。

食べるのが遅い我が家の面々、どんな展開になるのか楽しみになってきた。割り箸をパキッと割った先、湯気の中に揺らめく料理を見つめる。ふと、視界に動くものが見えた。

それは、あがり席の奥、窓から見える濃緑の木々であった。窓の外の景色は、真夏の熱気と潮騒で陽炎のように歪んで見えた。


つづく



ー おまけ ー

はーい、今回は、3年前の夏の記録
神島へのタビ 前編をお送りしました。
後編は、島を一周します!

年末年始をはさんで、行く年くる年ならぬ前編後編をお届けする暴挙(笑)

皆さん、本年もご愛顧ありがとうございました。

良いお年を、



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