歌と自意識過剰
歌うことが子どもの頃から大好きで、小学生の時は午後に祖母がうちに来るまでCDに合わせて歌っていたし(人前では歌えなかった)、ほんの5年くらい前まで毎週末の遊び方はカラオケのフリータイムで半日友達と2人で歌いっぱなしだった。
30歳になる前には歌を本格的に習いに行って、発表会や有志が集まる小さなライブで歌ったりもした。
実は録音を依頼してYouTubeで歌ったこともある。
ただ、どうしても自分の歌が好きになれなかった。声が細いのは元から持っているものなので仕方がないとして、どうにも歌が棒読みなのが許せなかった。どれだけ練習しても子どもの歌みたい。人前で歌う時も自信が持てない。
歌うことがほんとうに大好きなのに、歌を習えば習うほど技術的なことができない自分に嫌気がさして落ち込んだ。
レッスンを辞めた後もカラオケ通いは定期的にしていたがコロナ禍でカラオケ店の休業が続き、この2年は1.2回、ひとりで一時間ほど歌いに行ったぐらいでほとんど歌うことからは離れていた。
もうカラオケに行くような友達もいないし歌からは離れるのかな、なんて思っていた。
だけど最近通勤中など歩いてる時に音楽を聴いて、マスクの中で口パクで歌ってみると声は出さなくてもお腹が動いてなんだか気持ちがいい。久しぶりの感覚だった。聴いてるだけよりもその曲の世界に入り込めて、出勤前の緊張がほどけたり前向きな気分になれる。
やっぱり歌うっていいなと思った。
今日、歌いたくなって一時間だけカラオケに行った。なんとなくマスクをつけたまま歌ってみた。そうすると、今までより声が前に出ているような気がする。
「お、いい感じやん」と思った。レッスンに通っていた時の癖で自分の声を録音していたんだけど、帰って聴いてみると「誰これ?」と感じるほど声がイキイキしていた。
どうやら、わたしは曲の世界に浸っている自分を見られるのが恥ずかしかったみたいだ。ひとりで歌っていても「浸っている自分」をもう一人の自分が見ていて恥ずかしかった。「歌手でもないのに。上手くないのにそんな浸って」。もう一人の自分の声が聞こえていた。自意識過剰、根っからの恥ずかしがり屋。そんなことにやっと気づいた。マスクで顔を隠すことでやっと世界に入って歌えるようになった。
めちゃくちゃ楽しかった。また歌うことを続けたい。今回のことでひとつ外れたような気がする。まだまだこの先が楽しみだ。
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