菊の節句、菊の効能
重陽(ちょうよう)の節句
9月9日の「重陽(ちょうよう)の節句」にちなんで、「菊」です。
重陽の節句は、もともとは中国から入ってきたもので、5つある節句・五節句の1つで、「菊の節句」とも呼ばれます。
3月3日の桃の節句、5月5日の端午の節句、7月7日の七夕の節句は現代でもよく知られていますが、重陽の節句は、現代ではイベントや一般的に残っている風習はなく、あまり耳慣れないかもしれません。
中国では奇数は「陰陽」の「陽」の数字とされますが、一桁の数字で最大の奇数・陽数である「9」が重なる9月9日は、「陽」が「重なる」と書いて「重陽の節句」とされました。
菊酒
菊を飾ったり、菊の香りを付けた菊酒を飲んで長寿を願う日でもあります。
菊酒の風習は、中国の故事に由来があるようです。
9月9日に家に災いが起こるが、赤い袋に呉茱萸(ごしゅゆ)の実を入れて身に付け、高い山に登って菊酒を飲めば避けられると教えられ、その通りにして禍を逃れたことから、重陽の節句には菊酒を飲むようになったそうです。
菊は、古くから薬草としても使われ、不老長寿のシンボルとされてきました。
解毒、消炎、鎮痛などの作用があり、中国最古の薬物書である「神農本草経」には、頭痛や目の病気を治し、延命効果があると書かれています。
漢方にも「菊花(キクカ)」として配合され、高血圧、頭痛、目の症状などに処方されています。
食用にも栽培されています。
「阿房宮(あぼうきゅう)」「もってのほか」
現代風に言うと、食べられる花「エディブルフラワー」ですが、主に東北地方では古くから食用とされてきました。
青森の「阿房宮(あぼうきゅう)」、山形の「もってのほか」という品種が知られています。
「阿房宮」は秦の始皇帝が菊を愛でたという宮殿の名前。
「もってのほか」は「とんでもない」という意味で、「延命楽(えんめいらく)」というのが正式な名前のようです。
なんだか不老長寿を思わせる名前ですね。
食用菊は、色と香り、食感を楽しむ食文化ですが、子供の頃は苦くて全然美味しいと思わなかった「大人の味」です。
鮮やかな黄色、紫色は、見た目に美しいだけでなく、黄色にはカロテノイド、紫色にはアントシアニンという色素が含まれています。
このような植物に含まれる色素は「ファイトケミカル(フィトケミカル)」と呼ばれ、抗酸化作用をはじめ多くのはたらきが見つかっています。
薬草として古くから使い続けられているのも頷けますね。
古くから薬草としても使われ、不老長寿のシンボルとされてきた菊。
中国や台湾には、「菊花茶」という菊の花を乾燥させたお茶があるのをご存じでしょうか。
日本では、同じキク科の植物「カモミール」がハーブティーとしてよく飲まれるようになりましたが、同じ科の植物ということで共通する特徴があるようです。
菊花茶は目の疲れに良いとされ、パソコンなどで目を酷使する現代にも人気があるようです。
同じく目に良いというクコの実を一緒に入れて飲んだり、ウーロン茶やプーアル茶など茶葉とブレンドして飲んだり、健康茶としても人気があるようですよ。
とある眼科医院のHPで、眼科専門医の方が菊花茶を勧めているのを見つけました。
症状によっては医療機関に行った方がいいこともありますが、セルフケアをすることはとても大切です。
薬用「杭菊(こうぎく)」
たくさんの品種がある中で、薬用としてよく使われるのが「杭菊(こうぎく)」。
「杭菊」は、中国の浙江省にある杭州が産地として有名です。
杭州産のものと、台湾産のものと、2種類を飲み比べてみました。
どちらも、白い杭菊です。
袋を開けると優しい甘さが漂ってきて、この香りを嗅いでいるだけでも疲れが和らぐようです。
どちらも優しい香りですが、どちらかというと杭州産の方が華やか、台湾産の方が柔らかい香りという印象でした。
味は、香りほどの甘さはなく、すっきりと飲みやすく、ほのかな苦みが感じられます。
やはり、同じキク科・カモミールと似たところがありました。
菊枕
もう一つの菊の花の楽しみ方。
それは、安眠枕として歴史のある「菊枕」です。
干した菊の花を枕の詰め物として使うというものですが、それだと何百輪もの菊が必要で、日常で試せるものではありません。
代わりに、匂い袋のように布の袋に菊花茶を入れて香りを楽しんだり、少し温めてアイピローにしてみるのはいかがでしょうか。
ストレスや緊張で眠れない時、リラックスしたい時などにお勧めです。
来週は同じく菊の仲間のカモミールについて、アロマ・ハーブの話題をお届けします。
どうぞお楽しみに。
産業医 櫻庭千穂
食とココロの処方箋