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青春を奪われた夏。それでも秋山澪と日笠陽子は生き続ける。

2019年6月1日、私はとある場所に向かっていた。滋賀県豊郷町にある豊郷小学校旧校舎である。ここはアニメ「けいおん!」に登場する校舎のモデルとなっている場所だ。
私の“推し“である日笠陽子はこの作品に秋山澪という役で出演し、声優としてだけではなくベース兼ボーカルも担当した。そして日笠本人もけいおん!のライブでは実際にベース兼ボーカルを担当していた。

近江鉄道豊郷駅から歩くこと10分。豊郷小学校旧校舎に到着した。そこで見たアニメそのままの光景を私は忘れることができない。

旧校舎の中にある部室も再現度が非常に高く、エモさを感じていた。
アニメが放送されてから10年経った今でもこの「聖地」が守られ続けている点はとても感動的であった。

けいおん!は「京アニ」こと「京都アニメーション」というアニメ制作会社が手掛けている。京アニはこれまでにも「涼宮ハルヒの憂鬱」や「らき☆すた」などの人気作品を手掛け、聖地巡礼ブームの拡大にも大きく貢献した会社である。

私はこれらの作品を見て育ち、少なからず思い入れがあった。私にとっては京アニ作品が「青春」であったのだ。
それはファンにとってだけではなくキャストにとっても同じだった。この作品をきっかけに名前が知られるようになった日笠はけいおん!を「第二の青春」と表した。

しかし、そんな青春はあの事件によって奪われてしまうのである。

7月18日。京アニの第一スタジオで放火殺人事件が起きた。皆、嫌でも知っていると思うので事件の詳細はここには書かない。
第一報を知り、犯人への怒りよりもただただ悲しい気持ちになった。優秀なクリエイターの尊い命、そして私たちの「青春」も奪われてしまった。前述の豊郷小学校旧校舎にも献花台が置かれ(8月31日で撤去)多くのファンが悲しみにつつまれた。
アニメ関係者は私以上にショックを受けていた。勿論日笠も例外ではなかった。無理はない。日笠は他にも「響け!ユーフォニアム」や「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」などの京アニ作品にも出演しており、特に前述の「けいおん!」は彼女にとって「第二の青春」だった。

そしてこの事件をきっかけに日笠のブログの更新が止まってしまった。

事件から2日後の7月20日、私はとある場所に向かっていた。東京都千代田区にある科学技術館サイエンスホールである。
この日は「日笠・日高のお日様ぐみ!」という日笠が出演する動画配信番組のイベントがあったのだ。ちなみに今回のイベントは2回目であり1回目の模様は過去に記事にしている。

このイベントが事件後最初のイベントということもあり複雑な心境で迎えた。このときはとにかく日笠陽子が心配という一心で東京に向かったのだった。

しかし、その心配は杞憂だった。
日笠は6800円で買ってきたドレスで苦笑いしながら登場した。数日前に誕生日を迎えたため、この日の昼の部はお誕生日会として企画していたためだ。
その後もイベントは笑いが絶えないものとなった。6800円のドレスを着ながらスタッフの髪を切るシーンはとてもシュールだった。
イベントの終盤にはカラオケコーナーがあったのだが、日笠は水樹奈々の「TESTAMENT」を歌った。そのときには歌手・日笠陽子の片鱗が見えた気がした。両者のファンとしてとても嬉しかった。

夜の部はお誕生日会ではなく夏祭りがテーマ。なかでもスイカ割りでの一体感は忘れられない。ちなみにこのツイートは数日後のお日様ぐみ!で読まれた。ありがとう日高里菜さん

私はこのイベントの際に日笠陽子宛の手紙を書いてきた。その内容では一切2日前の事件には触れなかった。あの事件でショックを受けていると思っており、その件を思い出させないように避けたのである。

イベント中は終始笑顔だったが、その後もブログが更新されることはなかった。
8月に入って「アイカツお渡し会」「トリニティセブンイベント」「天才軍師イベント」といったイベントに出演していたが、ブログは更新されなかった。
ブログの更新に一喜一憂するのも変かもしれないが、やはり心配であった。実際のところ2009年からブログを始めて一月近く更新がなかったのは今回が始めてだ。
色々な憶測があった。「やはりあの事件のショックなのか」「某女性声優みたいにブログのパスワード忘れたのか」「34歳になったからブログを引退したのか」など…。
結局のところ更新されないまま8月が終わってしまった。

月が変わってすぐとなる9月1日、さいたまスーパーアリーナではアニサマこと「アニメロサマーライブ」が行われていた。
私はこのイベントで「放課後ティータイム」が復活するのではと思っていた。放課後ティータイムとは「けいおん!」の声優陣5人のユニットである。
そしてその予感は現実となった。放課後ティータイムがサプライズゲストとして登場したのだ。

そこで日笠は放課後ティータイムの秋山澪として「Don't say "lazy"」を歌ったのである。この曲はアニメ「けいおん!」一期のエンディングテーマであった。また、日笠が右利きにも関わらず澪にあわせる形でレフティーのベースも演奏した。
放課後ティータイムの復活はSNSでも大きな話題となった。

ライブ後、放課後ティータイムの面々がTwitterやブログを更新していく。そして日付が変わる寸前の23時59分、遂に日笠のブログが更新された。私を含めたファンはそのときようやく安堵した。

そこに書かれていたのは事件以降の苦悩と今でも「けいおん!」を愛してくれているファンへの感謝だった。
そして「みんなを笑顔にしたい」とも書かれていた。この信念こそが私が日笠陽子を応援し続ける理由の一つである。
人を笑顔にするために何度も自分を犠牲にしてきたことだろう。人を笑顔にしてくれる人は、他人の何倍もつらい思いをしているのかもしれない。それでもこうして笑顔を届けてくれている。だからこそ応援したくなるのだ。

今、私が彼らにできることは彼らが残した作品を後世に語り継ぐことだろう。これからも秋山澪は生き続ける。
そして色々な思いを背負って秋山澪の声優日笠陽子も生き続けるのだ。私はその背中を後押ししていきたいと改めて思った。