僕が1年半LGBTQコミュニティ運営をして失敗した話
対象読者
自分ってけっこう頑張ってるじゃんと思いたい人
これからコミュニティ運営を始めようとする方
理想通りにいかなくてモヤモヤしている方
失敗の定義
ここでは定期的な継続が困難になったという意味で使っています。
※個人の特定や批判を避けるため、固有名詞は出さないようにします。登場人物と施設の名前は架空のものに置き換えますのでご了承ください。
地域の要件定義
今回お話するのは大学時代に運営していたコミュニティの話しです。住んでした地域はかなり田舎でした。数字でいうとローカル線(都会でいう地下鉄に相当する電車)が一時間に二本。主要駅の半径1km以内にショッピングモールがないため、車がないと服を買い足すことすら困難といった感じです。僕自身は大学まで徒歩8分程度のところに下宿していました。なので、最寄り駅から20分程度電車に乗って県の主要駅に出ました。
コミュニティの目的
①LGBTQの方たちが抱えている社会的課題や悩みを理解すること
②様々な年齢、性別、職業、国籍の人の経験から知恵を得ること
③当事者にとっての居場所を作ること
僕が行ったコミュニティ形式
僕らは集まりのことを「勉強会」と呼んでいました。
毎月一回、日曜日の午後にLGBTQに関するテーマを話し合う
主要駅から徒歩5分の公共施設
会議室をレンタル(無料)
勉強会が終わったら次回の会議室予約
運営は僕を含めて三人
登場人物の整理
運営サイド
僕:大学院生、ゲイ(トランス男性)、発達障害ASDでもある
ジャックさん:物腰柔らかいおじさん
綿あめさん:農家で経営者
参加者
地域の方たち。となりの市や県外から参加してくれることも。
毎月合計で4名以上の参加がありました。当事者であってもなくても、障害があってもなくても、来てくれる方がいらっしゃいました。
勉強会の準備でやったこと
会議室の予約
次回のテーマの相談、決定
インスタグラム掲載用の告知ポスターの準備(PowerPoint)
インスタでの投稿
行ったテーマの例
好きと憧れの違いって何
男らしさ、女らしさの掘り込みはいつから
多目的トイレはどんな時に使ってる?
将来の不安について
あなたにとっての働くとは?
アウティングに繋がる言葉
議事録
13:00~17:00の四時間かけてテーマに関連することを話し合いました。その中で当事者の現状の課題も話題に上がり、経済的な問題や家族との折り合い、改名手続きの不安や就職の相談などを行いました。
話題になったことのほんの一部を紹介
身体の性別と心の性別の境目がわからない。
例えば、男の子から告白されたとき、心の性別(男)をカミングアウトしたら恋愛対象じゃなくなるの?
差別に対する反論の言葉を持っていることは自分や大切な人の身を守ることになる
多目的トイレは異性を介護している人や、異性の子連れの人にとっても必要なものだ。
アウティングに繋がる可能性があるので、本人の許可なく性同一性障害の治療の話題(ホルモン治療や手術)を大勢の前でしないほうが良い。
勉強会の成果や波及効果
LGBTQの方の社会的課題や悩みを理解するという目的自体は達成できたと思います。
対話を深める中で、あらゆる年代、年齢、職業の方たちが自分の在り方を見つめなおすきっかけとなりました。LGBTQ当事者にとっては誰かに傷つき体験を共有する機会に、非当事者にとっては自分の過去の体験を思い出し、理解を深める機会となりました。また僕を含めた様々な立場の当事者とじっくり話をすることで属性でひとくくりにするのではなく、当たり前の生活の一部に性的マイノリティであることで困難が生じているというリアルな情景が浮かび上がってきたことも良かったと思います。
継続困難になった理由
運営側の疲弊
だれが、いつまでに、何をするのか。
言葉にすれば当たり前のことですが、実際にやってみるとたったこれだけのことを決めるのに一時間くらいかかりました。そして常に、不公平への不満が少しでも偏ると次のアクションが起こらなくなる危機に面していました。簡単に言うとリーダーにはものすごくエネルギーが必要でした。
不公平をイメージするための例
小学校の日直:ペアの子が毎回黒板を消す前に外に遊びに行くから教室で遊びたい派の自分が毎回黒板を消している。
中学校の学級委員:クラスで自分が呼びかけているのに誰も発言しない。
家庭:パートナーが飲み会や仕事を自分だけで決めるから、自分が常に拘束されていないと子育てが回らない。
仕事では我慢に見合ったお給料がありますが、これがない組織でみんなが気持ちよく継続するのはとても難しいことでした。
二か月に一回に減らす、話したい話題ができたときに声をかけあうなどの案が出ましたが、僕が卒業するタイミングで引き継ぎする人がいませんでした。
参加者の特性
自分の話ばかりする方がいると、その方のために他の参加者の方の時間を消費することになりました。何度注意しても、結局自分の話しに戻ってしまったり、他の人のセクシャリティを決め付けてしまったりしまったりしました。
公私の区切り方
勉強会で知り合った人同士で親しくなるのは望ましいことです。しかし一方的に精神状態の悪い方が、別の方に、会以外の時間帯に何時間も電話をしてしまうといった事態が起こりました。これを禁止したり、監視したりすることは事実上困難でした。
LGBTQ独特の難しさ
難しさ①テーマ
LGBTQが社会構造的に弱者であることについて、正しい知識がないと簡単に差別的な発言が出ました。決して議論してはならないことが、どうしても話題になってしまいました。例えば、ジェンダーレストイレについて性同一性障害の当事者に意見を求める行為。また、同性婚がなくても、自分たちがどうありたいかが重要。海外に行けば結婚できる。
などといったアドバイスをしてしまうなどがありました。
難しさ②心理的安全性の確保
「人の話しを聞く」という基礎的な部分について全員が素人だったのが困難を極めたと思います。誰かの傷つき体験に対して「そうだったんだね」と言うだけでいい。なんなら、うなずいて受け止めるだけでいい。これが本来の聞く姿勢であるはずです。否定しない、感想を言わない、自分の辛い体験を聞かせない、アドバイスをしない、といったルールを浸透させるのが難しかったです。
難しさ③当事者側の負担
自分のセクシャリティを知られることで、当事者扱いをされることにストレスを感じて体調を崩す人が複数人出てしまいました。
これからのこと
僕が失敗だと感じているのは、継続ができなかったこと以上に「苦しいことを人に話したら余計にしんどくなる」ことを身をもって体感したからだと思います。
でも、何かを変えたくて会に参加した人。自分の気持ちを誰かに聞いてほしくて参加した人。それぞれにとって「ないよりはあったほうが良かった」と思うようにしています。正直次の企画をする元気はまだありませんが、自分自身が社会に居場所を見出すことで命拾いした経験がある以上、細々と「聞く」ことを続けていきたいと思っています。