思い出箱に
娘からプレゼントされた冬のダウンコートを、近くのクリーニングに出すついでに散歩に出かけた。
朝からシトシトと降っていた雨も上がり、柔らかな日差しが心地いい。
クリーニングの帰りに、ふと(最近歩いてないあの道を、今日は歩いてみよう!)という気になった。
何年も、毎日のように歩いた道。でも、ここ一ヵ月程、全く歩いていなかった道。
春風に誘われるように歩いていく。
たぶん、もう大丈夫。
たった一ヵ月ぶりなのに、懐かしく感じるこの道は、当たり前だけど、あれから何にも変わってなかった。
小さな田んぼも、工場の音も。その先の家も。
私は毎日、ここを楽しく歩いていたなぁ…。
ちょっぴり鼻の奥がツンっときたけど、色々と思い返しているうちに、微笑んでいる自分に気づいた。
春風と思い出のおかげ。それと私に少し耐性が出来てきたからかな。
道の途中にある小さな田んぼは、毎年キレイに稲が育つ、それは美しい田んぼだった。
緑の苗が、一糸乱れずグングンと上に伸び、田んぼの主たちが、一斉にゲコゲコと鳴き出し、静かになった頃、黄金色の稲の波がサワサワと秋風に揺られ、しばらくするとキレイに刈り取られる。
そんな横を、私は毎日歩いていた。ウキウキしながら。夜空を眺めながら。
いい思い出だったなぁとしみじみ思う。
3月末に引っ越す予定だったが、不動産屋と大家のもめ事に巻き込まれ、5月中旬に延期になってしまった。
少し延期になったところで、この田んぼの四季の移り変わりは、もう見れないことに変わりはない。
この田んぼのことも思い出箱の中に、大切にを収めよう。